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ツーアウトからのタッチアップ

中学の頃、一年生大会と呼ばれる野球の大会があった。一年生だけで行う大会だ。その前の練習の模様を以前に記事で書きました。


地域限定の大会だが試合は順調に勝ち上がり決勝戦は、となりの学校K中学校と対戦した。K中はライバル校で以前からなかなか勝てない相手だった。試合は投手戦が続き1対1で迎えた最終回。7回の表の相手の攻撃をしっかりと抑え、その裏、勝利の女神が舞い降りてきた。

7回の裏ツーアウトランナー3塁サヨナラのチャンスだ。

カキーン!大きなセンターフライが上がった。

『おおっ』みんな一瞬ベンチから身を乗り出し、誰かが「やっと試合が終わる、勝った」とつぶやいた。しかし、センターは定位置から少し後ろに動いただけだった。

延長戦か、僕はグローブを取り出すとライトの定位置に向かおうとした。

その時だ!

「おい!3塁ランナーのZを見ろよ、あいつツーアウトなのにタッチアップをしようとしているぞ」

● ここで説明しよう。タッチアップとはフライを打ったバッターがアウトになっても、塁に出ているランナーが条件を満たしていれば進塁できる。しかしツーアウトの場合、フライが上がってキャッチすれば無条件でチェンジとなり、相手側の攻撃になるのだ。


Zはしっかりと重心を下ろし、左足でサードベースをしっかりと踏んでセンターがボールを取るのをじっくりと見ていた。

「まさか!タッチアップするつもりじゃ…」

昔の巨人の渡辺恒雄オーナーの権力があっても野球のルールを変えることは不可能だ。Zよ、きみは今まさに野球のルールまでもを変えようとしているのか?

センターがボールをキャッチした瞬間、Zはものすごい勢いでホームへと走り出した。Zの頭の中ではセンターの定位置からやや後ろでボールを取ったのでギリギリでホームインできるかどうかまで考えていたと思う。

しかし、アウトカウントはツーアウトだ。ノーアウト、ワンアウトの次のツーアウトだ。雨が降ろうが雷が鳴ろうがツーアウトはツーアウトだ。

チームメイト、相手チーム、この試合を見ている観客、誰もがZに注目していた。あまりのZの真剣さに誰かが

「本当に今ツーアウトか?」と言い出した。もはやZの行いは周りの人間すらも変えていこうとしていた。

「ツーアウトですよ」とスコアラーをしているマネージャーがクールに答えた。当たり前だ、だってツーアウトなのだから。

Zは三塁とホームの間まで来るとニヤリと勝利の笑みをこぼしていた。なぜならキャッチャーがベンチに戻ろうとしていたからだ。(スリーアウトチェンジなのでベンチに戻るしかない)Zはキャッチャーを見てサヨナラを確信したと思われる。

Zは満面の笑みでホームベースを踏むと右手こぶしを肩の位置まであげ小さくガッツポーズをした。

皆、Zの一挙手一投足を夢中になって見ていた。まるでスーパーヒーローのイチローを見ているかのように。次は何をしてくれるのだろう、さあ、皆に勇気と希望を与えておくれ。

ガッツポーズをしたままZはバットを取りにきたバット係りにハイタッチをしようとした。するとベンチから

「お前ツーアウトだぞ!」と監督が大きな声で言った。

Zは我にかえり、一瞬、舌をペロッと出すと恥ずかしそうに、やっちまった感を演出した。

なんてうるわしい光景だ。それは、まだ残暑が残る秋晴れの午後の青春の一コマだった。

試合は延長戦の末、惜しくも敗れたのだが、あの感動は今でも記憶に残っている。

信じ切って真剣に行動すれば周りの人間はその人に夢中になる。そう僕は学びました。どうもありがとう!







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ミズグチスイデンクレ村長
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