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監禁を伴う強制脱会によってPTSDを発症した事例が報告されている
池本桂子氏と中村雅一氏が連名で「宗教からの強制脱会プログラム(ディプログラミング)によりPTSD を呈した一症例」という論文を、2000年に精神医学の学術誌に発表していました。
この論文の内容を、宗教社会学者の渡邊太氏の解説に基づいて、紹介したいと思います。
この論文では、家族と牧師による脱会プログラムを受けた後にPTSD を発症した人の事例が取り上げられています。この人は、信仰歴7年、32歳の女性でした。
彼女には妹と弟がいました。彼女は短大と大学の一年コースで養護教員の資格を取り、中学校などで養護教員として勤めました。短大生の時、アルバイト先の友人の紹介でキリスト教の一宗派の勉強を始め、5年後に信者になりました。
妹の結婚の前に最後の家族旅行をしようと親から誘われて出かけたところ、ウィークリー・マンションに父方の叔父、叔母、両親、妹と入り、約20日間、脱会プログラムのために監禁されました。窓には鉄格子が取り付けられ、トイレのドアは鍵がかけられないようになっていました。財布は取り上げられ、騒ぐと口をふさいで押さえつけられました。マンションに入った日の夕方、牧師が訪れて、信仰している宗教が間違っていると何度も言われました。友人に電話したいといっても聞き入れられず、もちろん、外出も許されませんでした。それから朝夕3時間ずつ牧師の話を聞く日々が始まりました。
最初の1週間は聞く耳をもたなかったのですが、入信していた宗教は間違いだったと思うようになり、脱会を決意しました。脱会を宣言したところで、監禁から解放されました。自宅に戻ってから、友人と話し、よく考えた結果、引き続きもとの宗教にとどまることを決めました。その後、精神科で診断を受けました。
彼女は監禁の体験を突然思い出して恐怖にとらわれたり、他の人の平坦な話し方で牧師を連想し恐怖を覚えるといったフラッシュバックに悩まされました。しかも彼女は再び監禁されることを怖れて、職場に行けなくなってしまいました。このようなひきこもりが、7ヶ月も続いたそうです。
医師は彼女にPTSDの診断を下しました。面接の際に彼女は次のように語りました。
「監禁されていたとき家族が淡々としていたことがショックでした。他人のしたことなら忘れられるが、家族のしたことは忘れられません。親から籍を抜きたいと思います。」
他人にだまされるよりも、親や妹にだまされる方が、ショックが大きいため、心の傷は深刻になります。
監禁がトラウマになることは、精神医学の研究によって明らかにされています。
この事例では、監禁に加えて、宗教的信条に関する自己決定権が近親者によって奪われたことによるトラウマが、PTSDを引き起こしたと考えられるそうです。
彼女は事件の一年後に精神科医と会った時、次のように話しました。
「やはり両親を許せない、レイプした相手に対するような感情を持っている、あの時のことを思い出すと緊張する。」
この精神医学の論文によって、親や牧師による監禁・強制棄教がPTSD を発症させることが、明らかになりました。
私はPTSDの治療のために、精神医療を利用することは大切なことだと思います。信仰と精神医学は両立します。精神科医や臨床心理士、看護師に対し、尊敬の念を持って、必要な援助を得ることが大切だと思います。
資料:渡邊太「第7章 洗脳、マインド・コントロールの神話」『新世紀の宗教』宗教社会学の会編、創元社、2002年、p.224以下。
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