「未完」が「完成」を凌駕する時代
column vol.490
「GQ Japan」編集長の鈴木正文さんが2022年1&2月号をもって退任されるということで、ちょっぴり残念な気持ちでいる今日この頃。
ちなみに鈴木編集長といったら、やはり半ズボンですね。
Pinterest/gqjapan.jp
半ズボンである意味は「童心を忘れないこと」。“良いところの小学6年生の坊ちゃん”というのがテーマのようです。
当社の代表も70代なのですが、時折、私たちに「少年少女の眼差しを忘れないように」と語ります。
確かに子どもの発想はしなやかで柔軟で、そして大胆です。
大切だと分かっていて、ついつい忘れてしまう「童心」ですが、若き感性を活かしてビジネス展開を仕掛けている企業もあるようです。
子どもの発想を活かしてヒット商品を開発
66万人キャンセル待ちのヘッドスパ、「悟空のきもち」はご存知でしょうか?
その実験ブランドとして誕生した、株式会社悟空のきもち THE LABOでは、12歳〜21歳の若者の発想を活かした商品開発を行っています。
〈東洋経済オンライン / 2021年11月27日〉
プロジェクトごとに参加人数は異なるが、全体で20〜30人の子どもたちが名を連ね、神奈川県小田原市にあるホテルを拠点に活動。
例えば、今年6月に発売された「マスクパン」(5個セット1,800円)は、メロンパンを使用したマスクで、まさに子どもならではの冗談のような商品。
にも関わらず、初回の販売分200個が初日で完売。10月末現在までに累計5,000個を販売、入荷待ちが続いているヒット商品になりました。
その他、企業や自治体を通じ世の中に出ている商品やサービスも多々あり、同社の業績を上げているそうです。
代表取締役社長の永野弘樹さんは
「成功者には子どものような方が多いですよね。だから社会って、“大人になったら負け”ゲームなんじゃないかと思うんです。日本の社会はルールや常識で子どもを縛ろうとするけど、それでは子どもの個性や自由な表現が失われてしまう。子どもが発想に任せて行動しても『勝てる』という雰囲気をつくってやることが大切です。THE LABOの子どもたちの例が呼び水になって、日本中がそんな雰囲気に満ちてくれば、社会がもっと活性化され、新しいビジネスがどんどん生まれるのではないでしょうか」
と熱く語ります。
子どもの教育という観点だけではなく、私たち大人も失敗を恐れず、「未完」でも、トライアルをすることが大切ですね。
イノベーションを起こすための「童心」を持つ重大さをTHE LABの子どもたちが教えてくれているようです。
未熟な技術で生み出す「共創消費」
「未完」ということで言えば、アップルの新技術に触れておきたいとことです。
「ダイナミック・ヘッド・トラッキング・サウンド」という機能を音楽配信アプリに追加。リスナーの動作に合わせて音の出方を変える音響技術ですが、その完成度は高くはありません…。
〈PRESIDENT Online / 2021年11月25日〉
ダイナミック・ヘッドトラッキング・サウンドとは、ヘッドホンやイヤホンを装着したリスナーの姿勢を検知し、音源の位置をリスナーの顔の向きに応じて定位させる技術。
しかし実際には、頭を動かしてから音源の擬似位置がそれに合わせて修正されるまで、10秒近いタイムラグがあるそうです。
なぜ、同社が未完成の技術を強引にでも世に出したのか?それは、「先行の利」を手に入れたいからです。
音の定位化に参入せず放置すれば、将来が期待されるメタバースでの音響技術において他社の後塵を拝することになります。
未熟でもまずリリースしてマーケットをつくり、フィードバックを受けながら完成度を上げていき、先行企業として独占状態を築く。
これが、典型的なシリコンバレーのIT企業の戦略なのです。
一方、日本には「クオリティ」を重視し、遅れをとってしまう。これが日本の企業が世界をリードできない大きな要因であると指摘されています。
今やマーケティング4.0時代。顧客とともに商品をサービスを作り上げていくという「共創消費」が求められています。
新しい商品やサービスを6〜8割の完成レベルで市場に出し、お客さまのフィードバックをもとに完成に近づけていく。顧客も自分が関与したことで、大きな愛着が生まれるという構図を理解する必要があります。
「ダメな子ほど可愛い」とまで言うと少し言い過ぎかもしれませんが、「未完」というのはこれからの時代の重要なテーマであることは間違いありません。
「共創」を促す「ナラティブ力」
この共創について重要な視点となるのが「ナラティブ力」です。
「ナラティブ」とは物語的な共創構造、近い言葉で言えばストーリーになります。
ストーリーの主人公のようではなく、ナラティブは語り手自身が紡いでいく物語。そんな違いがあります。
このナラティブが引き起こした村おこしの記事があったので共有させていただきます。
物語の舞台は山梨県の小菅村。この村ではコロナ前より観光客が増えているようです。
〈毎日新聞 / 2021年11月3日〉
小菅村は人口が最盛期の3分の1の700人ほどに減り、2020年には650人になる予定でした。しかも、このままでは2060年には300人を切るという試算もあったのです。
しかし、村人が一致団結して、村まるごとホテルに見立てた観光施策により、2020年の人口は700人超えを維持。上述の通り、コロナ前よりも観光客も増えました。
この奇跡のような本当の話の中心に、築150年の旧家を活用したホテルがあります。
ここは旧家時代、村の人々から「大家」と呼ばれ、昭和30年代、まだ村人には普及していなかったテレビ目当てに皆が集まった社交場。
現代においても、村人たちの心を通わせたノスタルジアとして存在しています。
空き家となった子どもの頃の原風景を自分たちの手で再び輝かせる。
もちろん、小菅村の観光活性の要因はいくつもあるでしょう。
しかし、この村のシンボルを再生することは、村の再生そのもの。空き家という未完のものになったからこそ、村人たちの共創は生まれたのだと思います。
共創時代は「未完」なものこそ強い。
絵本作家でタレントの西野亮廣さんがオンラインサロンのメンバーと一緒に手がける「町づくり」も同じ構造です。
町づくりを使ってオンラインサロンのサービスコンテンツとして共創消費を生み出しています。
商品・サービス開発の中で、共創できる余白をどうつくれるのか。その辺がこれからのマーケティング活動では大変重要になってきます。
よく、社内で新入社員が突拍子もないアイデアを出してきたりしませんか?実はその荒唐無稽な発想にこそ、宝の鉱脈が眠っているのかもしれませんね。
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