企業に求められる「巻き込み力」
column vol.369
日本を代表するアニメスタジオの「ジブリ」ですが、ジブリ美術館はコロナによって大きな危機を迎えていました。
年間300日弱あった開館日が2020年度は101日に減少(2020年11月1日から2021年1月中旬の間は長期休館し施設メンテナンスを実施)。
検温、消毒、人と人の間の距離を保つといった感染対策を講じ、1日の入館者数を従来の50%以下に抑えて営業していました。
そのため入館者数は例年の約65万人から、2020年度は9万人まで減少。
2020年度の入館料収入は6億6千万円が見込まれていたのに対して1億5千万円に留まり、見込みから5億円以上のマイナスとなりました。
赤字経営を補うため、蓄えてきた積立金や市の運営支援交付金を充てていましたが、資金難を脱するには至らず、いよいよ厳しい状況に直面…。
この危機を救ったのが、全国のファンでした。
〈BLOGOS / 2021年7月16日〉
お得意様ではなく「ファン」を育てる
そこで、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングを実施。すると、なんと受付開始から24時間を待たずに1200人超が支援し、目標金額の1000万円を達成しました。
さらに、ツイッター上では
「ジブリ美術館がふるさと」
というスタッフの涙腺が崩壊するほどの温かい言葉が溢れたそうです。
これはジブリが「ファン顧客」を育ててきた賜物だと言えます。
もちろん、ジブリほどのネームバリューがある美術館だからと思う方は多いとは思いますが、この「ファン顧客を育てる」という視点は、どの企業にも重要になってくる時代です。
この考えを一番分かりやすく学べるのが佐藤尚之さんの『ファンベース』です。
2割の上位顧客が80%の売り上げを作り出す。
パレードの法則をもとにした方法論なのですが、2割の上位顧客を熱烈なファンにすることで、お客さまの方から応援(支援)したくなる企業を創っていきます。
お得意様はただサービスを受ける受動的なお客さまであるのに対して、ファン顧客は口コミなども含めて企業の営業活動に対して積極的に参画してくださるお客さま。
ファンベースマーケティングについての話は以前、コラムでも書きましたので、こちらも併せてご覧いただければと思います。
「プロセス」がファンを育てる
「ストーリー消費」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
商品は物だけに、物言いません。しかし、どんな産地の素材を使って、どんな職人が、どんな想いで作っているか、そのストーリーに共感して商品を買うということは日常的にあるはずです。
このプロセスの公開について、とても端的に解説している記事があったので共有させていただきます。
〈日経MJ / 2021年7月18日〉
「プロセスエコノミー」を一言で説明すると「プロセスを共有するところがお金を稼ぐメインとなる」ということ。
従来の常識である「完成品としてのアウトプットを売る」という「アウトプットエコノミー」の対極にある考え方です。
昨今の代表例の1つが、アイドルグループのNiziUでしょう。デビュー前からあれだけ人気を博したのは、プロセスをコンテンツ化(商品化)したからです。
もちろん、企業の商品開発において、開発プロセスだけではなく戦略を途中で公開することはライバル社がいる手前しづらいと思いますが、発売とともにプロセスストーリーを添えてリリースすることは効果的です。
ここ最近で言うと、品切れ問題で話題になったアサヒの「生ジョッキ缶」がそうですね。
生ビールの美味しさを缶でも味わえるために、開発チームが行なった努力はまさにNHKの『プロジェクトX』そのもの。その熱意と折れない追求心は、多くの人の心を掴んだのではないないでしょうか。
社員を巻き込める企業がファンを育てる
ただ、「ファンを育てよう」と思い立っても、顧客を巻き込むはずの社員を企業として巻き込めていなければ叶うことは難しいでしょう。
巻き込むために一番大切なのは「自分ごと化」です。
社員一人ひとりが仕事を主体的に、そして能動的に仕事に取り組んでこそ、顧客の心を掴めます。
こういった社員の主役意識を上手く醸成している企業の1つがワークマンでしょう。10期連続最高益を成し遂げている源泉に「社員を追い詰めない“脱力系”経営」があります。
〈PRESIDENT Online / 2021年7月16日〉
ワークマンは定量的な目標(数値目標、仕事の期限など)を社員に押し付けず、社員を追い詰めないことが経営のモットーになっています。
実際、ワークマンでは新店舗のオープンが間に合わなければ遅らせ、決算発表を遅らせたことさえあるそうです。
普通に考えると相当リスキーなことですが、社員にはしっかりと質を追求してもらいつつ、その上で残業させないことを優先させているとのこと。
しかし、社員を大事にし、主体性を促すことで、社員の良好なエネルギーは顧客に向かいます。それが、顧客を大切にする企業としての一体感に繋がっている。
まさに理想的な好循環です。
ちなみに、今回ご紹介した記事の前編が、私の以前のコラムに載せていますので、こちらもぜひ読んでいただければ幸いです。
スターバックスジャパンの水口貴文社長や、スープストックを展開するスマイルズの遠山正道社長もそうですが、「自分ごと化社員」を育む企業の社長の社員を「信じる力」に圧倒されます…。
この信じる覚悟が、企業を活性化するのだと改めて痛感するのですね。
本日で4連休は終わりますが、明日の仕事再開に向けて非常に気持ちが高まる今回の事例でした。
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