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「フレキシキュリティー」が日本を救う?

column vol.523

明けましておめでとうございます。今年もぜひぜひよろしくお願いいたします。

横浜は気持ちの良いほどの快晴です。

日本経済もコロナに負けず、そして予測不能なVUCA時代に負けず、晴々といきたいものです。

今朝の日本経済新聞のトップ記事が「資本主義 創り直す」。その解に「フレキシキュリティー」を挙げていました。

フレキシキュリティとは「フレキシビリティー(柔軟性)」「セキュリティー(安全性)を組み合わせた造語。

雇用の柔軟性を担保しながら、同時に手厚い失業保障によって労働者の生活の安定を図る政策のことです。

実際、デンマークオランダでは一定の成果を生み出しています。

雇用の「流動性」と「安定性」を両立

フレキシキュリティーのポイントは雇用の「流動性」「安定性」の両立にあります。

言い換えると「競争」「再挑戦(失業へのケア)」を両立して「成長の好循環」を生み出すということなのですが、そもそもなぜ両立が必要かについて触れさせていただきます。

労働市場は「自由化」「保護」が二極として存在しています。

自由化すれば、雇用調整による経営の効率化が容易になり、環境変化に強い産業構造への転換が進みますが、いったん景況が悪化すると失業者が大幅に増え深刻な社会不安を引き起こす可能性があります。

逆に労働者保護に偏り過ぎると、経営の硬直化労働意欲の低下を招き、社会全体の活力を奪いかねません

日本はこれまで「保護」偏重と言われてきました。

日経新聞の記事の中でも

行き過ぎた平等主義が成長の芽を摘み、30年間も実質賃金が増えない『国民総貧困化」という危機を生み出した」

と指摘しています。

民間企業を縛る多くの規制が温存され、社会保証改革の遅れで財政膨張にも歯止めをかけられていないのが今のこの国の現状…。

安全性はあっても柔軟性がないという弱点を改革する必要があります。

「デンマーク」と「オランダ」の成功事例

資本主義の原則に則り、競争を促し成長に向かう。

一方で、それにより雇用の安定が損なわれるので、同時に失業手当や再就職などの労働者保護に力を入れる。

単に失業手当を給付するだけでなく、効果的な職業訓練の実施失業者が再就職するまでの支援を手厚く行うため、失業率を改善することができるのです。 

さらに、フレキシキュリティーは再就職の際は、失業者の要望プライベートを優先しつつ進めることを大切にしています。

これにより、長期的な目で見ると一人ひとりが自分らしく長いスパンで働くことができるようになるのです。

そこで、同政策のロールモデル国家である「デンマーク」「オランダ」の事例を見ていきたいと思います。

●デンマーク

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同国の失業率4〜5%程度とEU内では低く、就業率約75%と高水準。 「黄金の三角形」と呼ばれる政策を行なっており

(1)解雇しやすい柔軟な労働市場
(2)手厚い失業手当
(3)充実した職業訓練プログラム

を軸としています。 

デンマークにおける失業手当は、前職の給与の約9割であり、最長4年間支給対象となります。

また、失業者向けの教育訓練制度在職者向けの教育訓練にも力を入れており、失業者が特定企業だけでなく外部労働市場で活用できるスキルを習得する制度を整えています。

●オランダ

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オランダは失業率の低下だけでなく財政の赤字解消も実現。

労働市場の柔軟性を高め、低失業を維持するために導入されたのが 1999年施行の「柔軟性と保障法」です。

フレックス労働者における労働者性や労働契約性の特定、さらに労働期間が定められている労働契約から期間の定めのない労働契約への転換派遣労働契約規制などにも力を入れています。

アメリカや日本との比較

フレキシキュリティー的価値観はデンマークだけではなく北欧全体でスタンダードになっています。

失業率5〜8%で推移し、日本2〜3%よりも高いのですが、次に働く機会の見通しがつくため不安は小さいのです。

ちなみに、所得下位20%の家庭に生まれた人の最終的な所得水準をみると、生まれた時より上位に上がれる人の割合スウェーデン73%と、アメリカ(67%)よりも高いといった研究もあるそうです。

00年から19年のGDPの年平均成長率も、スウェーデン2.2%フィンランド1.4%デンマーク1.3%伸長。

一方で、所得格差の大きさを示すジニ係数(最大は1)は直近で0.26〜0.28%に留まっており、GDP成長率が2.0%アメリカジニ係数0.40であることから、格差の広がりを是正できています。

そして、日本はというとGDP成長率は年平均0.7%と北欧を下回り、ジニ係数0.33%と北欧より高く、幸福度は低い

再挑戦への機会も乏しく、一度経済的に転落したら、なかなか挽回しづらい環境です。

当然、失敗を恐れ保守的な社会になってしまう。

そんな日本全体を覆う閉鎖的なムードを打ち破るカギがフレキシキュリティーであるというのは納得できますね。

一社からできる「フレキシキュリティー」

昨年末の【「低賃金労働」からの卒業】でも語りましたが、とはいえすぐに政府や社会全体に期待するのは難しいと思いますので、自助努力として一社でもできる「フレキシキュリティー」についてポイントを挙げさせていただきます。

●資格取得やスキルアップの支援

社員のスキルアップ資格習得を促すことで、社員の転職退職後雇用を後押しすることができます。

つまり、汎用性のスキルやノウハウを持った人材を育てて、転職しやすくするというわけです。

より、卒業を前提とした社員に対して学習機会を提供していくことを「アウトスキリング」と言います。

一見、寂しく映る話かもしれませんが、社員全員に対して卒業しやすい環境づくりを行うことは、組織と個人、双方にとってもメリットがあります。

なぜなら、組織にとっては適性人材だけを残すことができ、一方、社員も「この会社にしがみつく必要がない」と思えることで最適なキャリアデザインを設計できるからです。

 そもそも終身雇用制度が崩れた今、組織と個人が縛りつけ合う(依存し合う)のは無理があると言えるでしょう。

●退職後も再び会社に就職できる仕組み作り

一方、一度会社を卒業し、新しい環境で新しいノウハウを学んだ上で、再び元の会社に戻りたいと思う社員がいたら、戻れる機会を戦略的に設けたいところです。

以前、何度かコラムの中でお話ししましたが「アルムナイ」制度の実現です。

アルムナイとは「卒業生、同窓生、校友」という意味で、転じて企業の離職者OB・OGの集まりを指します。

海外では、企業が一度自社を離れたアルムナイを貴重な人的資源として捉え、これを組織化し活用する事例が少なくありません。

日本でもスープストックトーキョー電通などが取り組んでいることで有名になりました。

一度外に出てみて改めて元の会社の価値(良さ)に気づいた。その上で、自社のノウハウをもっていながら、新しい職場での知見も兼ね備えている。

こういった人材はとても貴重です。積極的に味方にしていくのが得策なのではないでしょうか?

●「副業」人材の活用

自社の社員副業を認めたり自社副業人材を招き入れたり、社内に緩やかな流動性をつくるのです。

「アルムナイ制度を取り入れましょう」と言っても、転職はやはりヘビーです。

しかし、外の環境に触れること自社をより深く知る上でも大切だと思います。

それに、一社だけの閉ざされた環境はまさに村社会

確かに強い絆は生まれるかもしれませんが、それゆえに妬み嫉みなどのネガティブな感情も生まれやすいのではないでしょうか?

どこか違う世界をそれぞれの社員につくることで、「この会社だけが世界ではない」と思えることが、お互いを認め合いやすい環境づくりに繋がると感じています。

強い絆は終身雇用制度の中で育まれてきました。

その保証がないのに、社員を自社一社に縛り付けても、強い軋轢しか生まないような気がしてなりません。

それよりも、ミッションパーパスを大事にし、本気で理想的な組織運営に取り組んでいく方が、「この会社が好き。この会社を守りたい」と想いが社内に広がるはずです。

上司と部下の対話を起点とする組織へ

その理想的な組織運営を実現する上で、起点となるのが上司と部下の活発なコミュニケーションにあると言えます。

部下のビジョン達成を上司が一緒に設計し、対話によって導いていく長期的な目線で自分のキャリアについて意見をもらえる機会は、「自分らしく働く」を実現する上で非常に貴重です。

つまり、それだけでも部下にとって、会社に所属する意味は生まれるのです。

経営者は会社のビジョンを明確につくり、経営者→役員→部長→課長→社員と、会社のビジョンと社員のビジョンの重なり丁寧に確認し合っていく。

ビジョンが大仰なことだとしたら、「面白いこと」「やりがい」でも良いかもしれません。

この会社における仕事の面白みは何なのか?それぐらいは、全ての経営者がスラスラと言える…かと思います。

昨年実施した当社のリクルートでは十中八九の受験者から「御社は今後どんな企業を目指していますか?」「御社の一番のやりがいは何ですか?」と質問されました。

今の若者は、ほぼほぼ一社で人生を全うする気はサラサラないはずです。

大事なのは共感でき、卒業したいと思った時に必要な経験値が積めているかどうか。リクルートの時はそのように厳しい目で会社を見ています

ミッションやパーパス、やりがいを語れることは企業にとっての基本の「キ」、そんな時代なのです。

「フレキシキュリティー」社会の実現には、制度の整備だけではなく、このような職場における価値観のアップデートが必要になります。

特に私も含めて経営を司る人間こそ、脳内改革が必要です。新年初日からプレッシャーのかかる記事ですね(笑)

でも、良い意味で緊張感が出てきました。

ということで、昨日2022年の目標を「成長」と掲げましたが、自分自身が脳内改革できるようなインプットとアウトプットの循環をnoteの中でも行なっていきたいと思います。

今年も一年ぜひぜひよろしくお願いいたします。

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