持続可能な「小売業」の未来
column vol.663
今、ルミネ・ニュウマンが10%OFFキャンペーンを行っているため、昨日は横浜の両店舗に買い物をしに行きました。
3月に続き、行動制限のない中でのキャンペーンだったので、昨年に比べると人手が出ているといった様子で、横浜駅周辺の他の商業施設を見ても、押し並べて賑わいが戻ってきていると感じました。
とはいえ、小売業全体としてはまだまだ本調子ではないですし、また、社会変革が進み、以前の状態には完全に戻らないという予測もあります。
では、小売業の今後の未来とはどんな世界になるのでしょうか?
そのヒントを示唆してくれている記事が、幻冬舎ゴールドオンラインに掲載されていたので共有させていただきます。
〈幻冬舎ゴールドオンライン / 2022年5月18日〉
『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』の著者、ダグ・スティーブンスさんは、このコロナをきっかけに業界全体として、「持続可能性」に向かわなければならないと指摘しています。
今日はこの記事に即して、現在の小売業各社の取り組みを添えて、話を進めたいと思います。
持続可能な社会に向けての大切な着眼
今まで廃棄ロス、生産者の低賃金労働など、小売業はさまざまな問題を抱えていました。
もちろん、近年ではSDGsの機運も高まり、各社持続可能な社会の実現に力を入れていますが、スティーブンスさんは建築家でデザイナーのウィリアム・マクダナーさんの言葉を借り、このようなことを指摘しています。
「有害な慣行を減らす」ことは、「有害な慣行を今後も続ける」と宣言しているのと同じで、決して褒められた話ではない。
つまり、減らすのではなく「なくす」。抜本的な改革の必要性を説いていらっしゃいます…(汗)
売ったきり、作ったきりの「直線型」のビジネスをやめ、「循環型」にしていく。
循環型経済の思想においては、エネルギーや資源、原材料などにおいて、使用されるものは最終的にリユース(再使用)、リサイクル、リターン(返却)という形で再生可能なものとし、未来の世代が使えるようにすることが前提となります。
しかし、環境問題を解決する上で、同時に労働者の不平等の問題も解決しなければなりません。
イギリスの『ガーディアン』紙がバングラデシュの縫製工場労働者の低賃金問題を明らかにしていますが、環境よりもまずは生活(生存)を優先されるのは当然のこと。
複合的な解決が必要となる中で、スティーブンスさんは以下の4項目を実現することが必要だと語っています。
①賃金……公正・公平であり、従業員が安心感と充足感を持ち、実りある生活を送ることができ、地域社会への貢献や投資が可能になる水準であること
②製造工程……事業拠点となっている地域社会に対して最終的に経済面・環境面でメリットをもたらすこと
③原材料……安全で非毒性の天然由来であることに加え、食物源またはエネルギー源として将来使えるように環境に戻すことができること
④製品……リユース(再使用)、再販売、修理、リサイクルが可能で、有用な期間が劇的に長くなること
言葉にすると簡単ですが、その道は険しい…。やはり、この理想を押し進めるためにはリーダーが必要となります。
新しいリーダー像「H・E・R・O」とは?
それも旧来の考え方から脱却した新しいリーダー像が求められます。
スティーブンスさんは、それを「H・E・R・O(ヒーロー)」と表現しています。
①謙虚さ(Humility)
明日を担うリーダーは謙虚で、不確実性を潔く認める。また、そう認めることで、弱さを正面から受け止めている。リーダーは本質的に自らのやり方に好奇心を持って取り組んでいる。だから大家ぶることもなく、自分が率いる組織が正解に辿りつけるような質問を見極めることに長けている。成功も失敗も同じように大切に扱い、どちらの場合でもその過程で組織が何を学び取れたのかに着目する。
②共感力(Empathy)
明日のリーダーは、他者が置かれている社会的・経済的な状況に敏感である。スタッフと顧客のどちらに対しても、その人の身になって寄り添える機会を重視している。とても熱心な聞き上手で、パートナーや顧客、スタッフの不安解消に積極的に取り組む。あらゆるステークホルダー(利害関係者)の利益と感情のバランスをとるために、公平・公正を追求する。
③立ち直りの早さ(Resilience)
元来、意欲にあふれ、障害や課題にぶつかっても立ち直りが早い。生まれつき、新しい手法やシステム、手順を積極的に試す姿勢がある。普通なら失敗プロジェクトと判断されるような場面でも、こうしたリーダーは、実験としてうまくいった部分に目を向ける。ピンチをチャンスと捉え、変化はプラスのエネルギーと捉えて取り込む。
④寛大さ(Openness)
専門家の意見や情報にしっかりと耳を傾けつつ、組織全体の幅広い声を見失わない。他者の見解をしっかりと受け入れる一方、自分の意見に対する異議や自分の行動に対する批判を積極的に受け止める。とりわけ危機的な状況下で、組織力の中核として多様性を重んじ、複数の視点や経験を生かすことができる。
これは、小売業問わず、全てのジャンルに通用するリーダー像ではないでしょうか?
これからの社会のリーダーには、一層「利他主義」の視点が必要になります。
さまざまなステークホルダーに配慮する新しい資本主義の実現が求められる今日において、「他」と「己」を分けずに、活かし合う大局的な視点、長期的視点を持てることが、結果として持続可能な企業を築いていくことなるでしょう。
小売企業各社のSDGsトピックス
現在、小売業(リアル店舗)の最大の課題となっているのが「デジタルシフト」ですが、まだまだ顧客接点(販売機会)の多様化という視点で業界全体としては留まってしまっていると感じています。
もう一段高い視座、つまり「DXを通じてサステナブルな社会を実現する」という視点がより強まっていくと理想的です。
例えば、最近さまざまな企業がトライアルしているモノを販売しない「ショールーミング型店舗・スペース」も、ストック(在庫)からの解放や資金力を持たないスタートアップブランド(主にD2Cブランド)の活躍機会をもたらします。
また、ビッグデータを利用した最適な商品開発計画を実施することで、廃棄ロス削減に繋げることもできるでしょう。
デジタル技術を使って自社利益を上げることと共に社会利益を同時に生み出す意識が高まると小売の未来は明るいのではないでしょうか?
最後は、ここ最近のSDGs関連のニュースをご紹介して締め括りたいと思います。
まず一つ目が、中部経済新聞社で取り上げられた名古屋市内百貨店各社のSDGsの取り組み。
松坂屋名古屋店の使い終わった店内装飾でつくるブーケイベントや、ジェイアール名古屋タカシマヤの催事「やさしい暮らしと彩るコモノたち」などが紹介されています。
〈中部経済新聞社 / 2022年5月21日〉
また、大阪の「あべのハルカス近鉄本店」では、障害者の雇用を進めるチョコレートメーカーの商品や、環境に配慮しながら育てた鶏を使った「鶏めし」などを集めたお中元「SDGsコーナー」を設置。
お菓子の数を一つ減らしてその分の費用を東北の被災地に寄付するという活動も行っているそうです。
〈NHK / 2022年5月18日〉
冒頭のルミネ・ニュウマンでは、毎年バーゲン期を可能な限り後ろ倒しにして、テナントが適正価格で売れる時期を確保したり、環境推進プロジェクト「choroko(チョロコ)」など、さまざまな取り組みを行っています。
他にも、各社さまざまな取り組みを行っているので、今後も継続的にご紹介いたしますね。
スティーブンスさんの高い理想を理解しながらも、一歩一歩着実に。小売各社の変革に着目していきたいと思います。
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