アスフレ観戦記『22-23季に向けたオフシーズン』
アースフレンズ東京Z(アスフレ)の22-23シーズンが、いよいよ始まります。このオフシーズン、彼らがどんな準備をしてきたのか。振り返ってみましょう。
1.右肩下がりと疲弊
皆さんご存知の通り、Bリーグ開幕以降、アスフレの成績は右肩下がりです。運営会社の代表でもあり、オンコートの編成も担っている山野さんは、その改善策として、毎年のようにチームを解体。様々な方法を試し、再建を図っていました。
しかし、成績が示すように、改善の兆しは一切ありません。『勝ち負けが全てじゃない』とは言いつつも、未来が一向に見えてこない応援には、コアなファンでさえ、限界の色を隠せなくなっていました。
2.過去を抱え続ける
ファンのそんな空気を察したのか。はたまた、ご自身で限界を感じたのか。山野さんは編成から身を引き、ゼネラルマネージャー(GM)の採用を決断しました。
新しいGMは、衛藤晃平さん。
プロのコーチ経験が豊富ですが、おそらく、パワハラ加害者としての方が有名でしょう。
香川ファイブアローズでヘッドコーチ(HC)をしていた頃、選手やスタッフへの暴言・暴力が発覚。リーグから職務停止処分を科され、HCを辞任。バスケ界から離れていましが、山野さんに拾い上げられるかたちでアスフレに入団。フロントスタッフ業務を経てのGM就任です。
この人事に対しては、チャンスを与えた山野さんを称賛する声だけでなく、厳しい批判の声も少なからずありました。まぁ、パワハラの内容がかなり酷かっただけに、バスケ界への復帰を許せない人の気持ちも、十分理解できます。
衛藤さんも、そういった拒絶反応があることを理解していた筈です。だって、GM就任時コメントは、大半がお詫びで埋められていましたから。
ようやくGMが決まったのに、未来へ向けた議論がほとんどなく、本人から出る話も、周りから出る話も、パワハラのことばかり。衛藤さんは、バスケ界にいる限り、過去の過ちをずっと抱え続けていくのでしょう。
日本のプロスポーツ界は、とにかくイメージが大切です。Bリーグのオフシーズンを、悪い意味で賑わせた不倫騒動が典型的な例ですが、個人的なことでさえ、内部の人には潔白であることが求められます。普通のチームならば、過去の過ちを抱え続ける人を採用するのは、明らかなリスクです。
それでも、少なくとも私には、衛藤さんを受け入れることに、あまり抵抗はありませんでした。ちょっと突飛な理由ですが、アスフレを真に変えるのには、そんなに悪くない人選だと考えていたからです。
山野さんが繰り返して用いている解体は、言わば過去を捨てる行為。良いものも、悪いものも、1シーズンで積み上げた全てを放棄。敢えてゼロから始めることで、変化を与え易くしています。決して間違った手法ではありません。
但し、大きな変化を与えるのには、優秀な選手やコーチングスタッフが必要なため、相応の資金が必要です。しかし、アスフレには、そんな資金ありません。どんなに解体を繰り返しても、見た目か変わるだけで、戦力が上がることはなかったです。どんどん進む他クラブとの差は、開く一方でした。
山野さんが過去を捨てる解体を繰り返した結果、低迷に陥ったアスフレ。それを再建するのは、過去の過ちを抱え続ける衛藤さん。何の因果か、両者には過去の扱い方に明確な違いがあります。
この違いによって、チームビルディングは変わる気がしました。
3.現実を見ろ
その期待通り、衛藤さんは就任早々に改善点を示してくれました。シーズン終了後のGM就任で、時間はあまりなかったでしょうが、どうやらフロントスタッフとして働いていた時から、色々と肌で感じていたことがあったようです。
以下は、衛藤さんがyoutube動画で挙げた問題点の抜粋です。
話題に出てくる『理想と現実のギャップ』に関しては、これまでのアスフレ観戦記でも何度か触れています。
アスフレ観戦歴4年になりますが、古田体制もそう、東頭体制もそう、ウーゴ体制もそうです。掲げた理想と目の前の現実には、いつだって大きなギャップが存在していました。
例えば、東頭体制におけるコンバート。世界の大型化に則って、日本人ビッグマンをウィングにコンバートしました。しかし、コンバートさせたからといっても、スキルを教えられるコーチは資金的に雇えませんし、練習に打ち込める専用施設もなかったです。
選手の能力に大きな変化はなく、結局はポジション表記が変わっただけ。勝利に繋がる施策とはなりませんでした。
そういった事例の改善策として、衛藤さんが提示したのは、現実を踏まえたチームビルディングです。理想を認めたうえで、今は現実との橋渡しが必要であると主張しています。
具体的な方法・手段までは示されていませんが、この主張には十分に納得感がありました。
東頭さんのコンバート以外にも言えることですが、理想は決して間違っていません。どれも現代バスケの潮流にフィットしていましたし、目指す地点としては適切です。
しかし、如何せん現実の方が低すぎました。アスフレは、主に資金面の問題で、戦力や環境を十分に用意できません。結果的には、力を持たない現実が、理想に振り回されてしまいます。
衛藤さんの言うとおりです。アスフレがまずやるべきことは、現実の低さと真正面から向き合い、認めることだったのかもしれません。
4.育成を排除
チームビルディングの起点は低い現実。ここまでの話で、それは理解できました。では、今シーズンの終点はどこになるのでしょうか。
山野さんは、衛藤さんに『30勝』を課しています。2桁勝利すら怪しくなっているチームが、GMを雇っただけで30勝。何と虫のいい話。数年後という条件付きならまだしも、単年だと流石に現実的ではありません。まさに『理想と現実のギャップ』に該当するため、30勝は一旦スルーしましょう。
現実的な終点、というか必達の終点は、どう考えても『降格回避』です。今シーズンは、いよいよ降格精度が復活。シーズンの成績の下位2チームは、自動降格となってしまいます。
生き残るために必要なのは、言うまでもなくオンコートの実力です。今シーズンのB2は、B3から強豪が昇格してきたり、B1から戦力獲得が相次いだり、さらにレベルが上がっています。現状維持では、間違いなく降格です。
アスフレには、彼らと戦って生き残れる力があるのか。ここからは、今シーズンのロスターを見ながら、実力を評価してみます。
結果的には、今シーズンも解体が選択され、顔ぶれはガラッと変わりました。色々と思うところはあるのですが、至極妥当な選択です。
昨シーズンのロスターは、ウーゴ体制用にカスタマイズされたもの。ウーゴさんはシーズン途中で契約解除されていますし、そもそも契約解除の理由が成績不振。勝ちを求めているのですから、継続は選択できません。
大きく変わったロスターは、年齢層に特徴があります。若手が減少し、ベテランが一気に増加。平均年齢は、昨シーズンよりも上がっています。
これまでのアスフレは、”表面上”育成型のクラブです。ロスターの大部分は若手が占めるため、競争力は成長という不確定要素に頼らざるを得えませんでした。
しかし、降格制度の復活する今シーズンは、成長を待っている余裕なんて一切ありません。育成を最小限に留め、ベテランで確かな競技力を確保しようとしているのでしょう。
5.大誤算
但し、オンコートは実力主義の場です。平均年齢が高くても、勝てるとは限りません。今度は役割別に、年齢関係なく実力を評価してみます。
◎ハンドラー
まずは、ハンドラー。
オフェンスに長けた増子の代わりには、オフェンス力で長年サバイブしてきた城宝。ゲームコントロールを担ってきた久岡の代わりには、ベテランの域に突入した木村。アウトサイドからのスコアに優れたバートンの代わりには、B3で平均8.8得点を叩き出していた井手。
主力3人が退団する大事でしたが、新規契約選手で上手くカバーできています。選手のタレントに見劣りは一切ないです。
とは言っても、満足はできません。ハンドラー(PG)は、そもそもアスフレの弱点です。現B1滋賀の柏倉が移籍して以降、常に相手の後手に回っており、低迷の原因と言っても過言ではありません。ちょっとやそっとのプラスではダメ。勝つためには、絶対的なプラスが必要です。
そこで期待したいのが栗原と岡島。若手である彼らならば、まだまだ成長できる筈です。先輩たちを喰うぐらいの活躍をして、チームにプラスαを与えて欲しいです。
◎ウィング
次にウィング。
スコアリングマシーンのナッシュはもちろん、キャリア通算3P成功確率36.1%のシューター鹿野と、身体能力に優れたウィングディフェンダーの大矢を獲得できたのは、本当に大きいです。選手のタレントは、ここ数年で一番充実していると言っていいでしょう。
と想定していたのですが、物事はそう簡単に上手く進みませんでした。シーズン2週間前に来日したナッシュが、メディカルチェックで引っ掛かり、契約解除になってしまったのです。
代わりの選手は短期契約ですぐさま確保できましたが、チームのスコアリーダーとなる筈だった選手を失った影響は、少なからず残ってしまうでしょう。
◎ビッグマン
最後にビッグマン。
外国籍選手のタイプが昨年とは異なるため、比較が難しいのですが、DFの改善は大いに見込めます。
退団したクロフォードは、スピード(クイックネス)不足が深刻でした。ローテーションが遅れたり、スピードのミスマッチを狙われたり、DFの穴となっていたため、ウーゴHCはゾーンDFを多用せざるを得なかったです。
一方、今シーズンの外国籍選手は、ナッシュの代わりに短期契約したサンプソンも含め、アスレチック能力に長けたタイプです。リムプロテクトに優れているのはもちろん、平面の展開にもそれなりに対応できます。
懸念事項は、層の薄さです。サンプソンの短期契約が終わると、ビッグマンは2名しかいません。ベクトンは、昨シーズンのB1で2番目に平均ファール数が多かった選手。控えがいないのは、ちょっと心配です
とはいえ、予算的にはもう限界なのでしょう。少数で何とかやり繰りしながら、戦っていくしかなさそうです。
ロスターを役割別に見てみましたが、最後の最後にナッシュの件で不測の事態が発生したものの、選手のタレントは昨シーズンよりも確実に上がっています。
あとは、彼らが良い感じでケミストリーを構築できれば、降格回避できるとは言えませんが、降格争いに参加する権利は貰える筈です。
6.東頭体制との相似
しかし、実はそのケミストリーが、現時点で最大の不安要素になっています。外国籍選手の合流遅れによって、チームが揃った光景をまだ一度も見られていないからです。
多くのチームは、7月~8月上旬くらいが外国籍選手の合流時期。一方、その頃アスフレは、まだ契約発表すらできていませんでした。おそらくですが、合流だけが遅れたのではなく、 構想から契約に至るまでの過程が全体的に遅れていたのでしょう。
アスフレよりもタレントが豊富なチームが、アスフレよりも練習期間を長く取って準備しているのですから、序盤に大きく負けが込むのは覚悟しておくべきです。ただ、ここ数年のように敗戦を重ねてしまうと、挽回が極めて困難になってしまいます。
降格争い戦線に残るためには、なるべく早期で戦えるチームを構築しなければなりません。選手だけでなく、コーチングスタッフの手腕が問われる事態です。
おそらく今シーズンは、ロスターのタレントを充実させるため、コーチングスタッフの予算を下げています。人数的にも、経験的にも、ちょっとパンチに欠ける顔ぶれとなっていますが、大きな問題を抱えたチームを上手く導いてくれるでしょうか。能力が未知数なだけに、心配が募ってしまいます。
ちなみに、コーチングスタッフの予算を絞るのは、これが初めてでありません。2シーズン前の東頭体制2年目も、勝負に拘ると宣言し、同様の選択がありました。しかも、シーズン途中ではありますが、その時もウィスマンさんとアドバイザー契約を結んでいます。
その結果は言うまでもありませんね。捨てたくなるような歴史を繰り返すのか。それとも、タイムリープ系物語のように、誰かの奮闘で違う結末を迎えるのか。
今シーズンはそこに注目しています。
7.勝利の価値
以上がオフシーズンの話です。新GMの衛藤さんによって、山野さんのチームビルディングが正され、チームは大きく変わりました。本来ならば、花丸で称賛するところなのですが、実は心に引っ掛かるものがあります。
それは、チームの特色が著しくなくなったことです。
当人の意向もあるでしょうが、チームの顔たる選手が退団。育成を最小限に留め、ロスターの中心は若手から中堅・ベテランへ移行。ロスターの構成は、ウーゴさんや東頭さんが指揮していた頃に比べれば、至って普通。
それらが勝利のためであることは、頭で理解できます。しかし、自分が間近で見てきたものが、次々に不要と判断されていく光景には、心が追いつきませんでした。ちょっと切なかったです。少なくとも私は、勝利以外のものに惹かれ、アスフレを応援していましたから。
まぁ、そいういった結果に依らない要素は、これからなのかな。演出チームをUmeさんがコントロールしているように、ZgirlsをFukaさんがコントロールしているように、衛藤さんがオンコートをコントロールしながら、新しいアスフレらしさを創っていくのでしょう。
8.最後に
今シーズンから、チームは新しい道を歩みます。このタイミングで、これまでの選手やコーチングスタッフ等に改めて感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
結果は出なかったけど、皆さんと共に歩めたことは、本当楽しかったです。大切な思い出として心にしまっておきます。
では、新しいチームへのエールと、過去のチームへの感謝を込めて。
Go Win Z ! ! !