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アルトデウスの音楽制作に参加した話
時代はさかのぼってアルトデウス
こちらを例にインタラクティブミュージックの作るときの注意点を語ります。
このタイトルから自分はMyDearestに参加して、サウンドのプログラムやボイスデータのエフェクトなど中心に、楽曲も目立つところでは2曲ほど参加しています。
CDの尺は短い・ゲームの尺は無限
Strategy Meetingは、すべて打ち込みの楽曲で、アルバムの中では49秒ととても短い。
アルトデウスの序盤の長いエレベータ内での会話の裏側で流れています。
シーンの長さが49秒で終わるわけでもなく、ループ部分が多く作られています。
ゲーム中では、4から8小節の単位で分割されてその範囲でループします。
とても分かりやすく、4打ちのバスドラム、その上にシーケンスの音が繰り返されているのですが、この時の納品物としては、複数のパートに分割していて、ドラムパート、ベースパート、シーケンスパート、裏で細かく繰り返しているパート
といった、複数トラックのステレオデータ(ステムとか言う場合もある)
それぞれをゲーム中に音量が変更できるようになっていて、
会話を進めるたびに 繰り返す範囲とどのパートをどれくらいの音量に変化させるかといったパラメータとともに再生されます。
このドラムだけ、とか、裏でずっと繰り返しているパート、とかは
ゲームの演出のつなぎ(のりしろ)パートとして、使える場合があるので、入れておくというのは、かなりノウハウかも。
MyDearestの音楽とシステム
MyDearestでの音楽作成のスタイルがどのようなものかといったものの初体験にもなります。
この時は、ディレクションや、実際の再生時のパラメータは、他の人に委ねて、自分は、音楽のパレットというか、絵具というか、材料を用意するような作り方をしています。
自分が参加する前の東京クロノスでも、インタラクティブな音楽が使われていて、そこでのノウハウを知る機会にもなります。
システム面では、今まであった良いところは残しつつ、仕組みを一新して作り直して、さらに扱いやすい、より良いものにしようという試みをしています。
(ミドルウェアの導入やUnity上での制御など)
アドベンチャーゲームは、ユーザーが文字送りをすることで、話が進みますが、文字を読む速度は、人それぞれです。
また、ボイス再生もありますが、全部聞く人もいれば、スキップする人もいます。
そのため、最初から、尺が固定されていない作り方になります。
動作検証のための楽曲(開発初期の一曲目)
インタラクティブな仕組みが なんとなくは決まっているのですが、
正しく動く・効果がある のかどうかの検証の意味合いが強い。
試行錯誤の最初の時点で、まずは、4打ちのシンプルなもので、正確に意図通り遷移するのが確証できるか、システムの点検用。
(序盤のシーンなので確認しやすい)
また、シーケンスの音もそれぞれ、区別がつきやすいものが採用されています。
それでいて、このタイトルの場合は、初めからCDを作ることも想定していて、ミックスもCD用のステレオミックスと、
ゲーム用のマルチパラアウトした、複数ステムでのミックスが行われています。
自分の場合、スタジオでミックスしてもらう機会は人生経験上ほとんど無かったので、かなり新鮮な形で制作に参加できました。
ある程度時間が経過して開発終盤での2曲目
続いて、Sacrifice and Farewell
この曲は、面白い作り方で、最初は、郡さんが作りかけていたイントロのピアノを
引き取り、コーラスパートや、テーマのマイナー調を中心とした部分、ブラスのアレンジなどを担当しました。
郡さんはイントロのピアノ、弦のパートを行っています。
アルトデウスの時は、
曲数が多いのと、各種ステム化とCD化を意識しつつ、ゲームの開発もしつつと、多忙なため、手伝う形でしたが、
自分はゲームのラスボス戦みたいな曲を作ってみたいというのは、ゲーム音楽に浸っていた小さいころからの夢や憧れもあったりで、苦労しつつも楽しく作ることができました。
他の楽曲のクオリティがとにかく高い
ただ、他の楽曲のクオリティがとても高いため、また、他の楽曲は演奏のレコーディングを行うことが多いのですが、この曲は、レコーディングは曲中のコーラス(合唱)のみ行う形で作られています。(他の音は打ち込み)
ピアノが中心の曲
無限にお金をかけられたら、ピアノとか本当にうまい人とかにお願いしたいところですが、そうするためには楽譜を用意したり、演奏レベルに合わせたりと別軸の難易度が跳ね上がります。
そういうのは予算や時間に余裕があるときにやりたいものですが、当時は時間がかなり切迫していたので、
自分が超低速でMIDI打ち込みしたものを、後からテンポアップして入れています。
この曲は、イントロのピアノから始まり、
ピアノのアドリブ的なふるまいが、曲中通して流れます。
プレーヤーの心(不安、戦い、葛藤)の揺らぎが
ずっと流れているピアノの中に託されている気がします。
楽曲構成
曲はおそらく変則3部構成
ピアノ部分・転回部分・テーマ
の3つの構成をミルフィーユのように交互に出していく形。
ピアノ・転回・テーマ・転回・コーラス・テーマ・ピアノ
最後のバトルは、ストーリーの内容も語りながら、且つテンションが下がらない、且つ飽きさせないという、かなり難易度の高い課題が課せられていました。 (今聞くと、もっとこうしたいとか欲がとてもとても沸きますが、当時はこれが精いっぱいだった感じもする)
長い楽曲にするための手法としては、ゲームではロンド形式みたいなのが頭に浮かびました。 あるいはソナタ形式など。
古典音楽から学ぶもの、 インストの楽曲は構成は自由ですが、オーケストラ風の楽曲構成というのもあり、
繰り返しつつ、飽きさせない手法が使えます。
1曲を作るというよりは、複数の曲を組み合わせて長い曲にした感じになります。
ラスボスというテーマはわかりやすい=作りやすい
ラスボスは荘厳な感じ・そして狂人となった相手という驚異を感じる。
という音楽としての表現としてはわかりやすいので、実は作りやすいかもというところです。
(一番曲作りで悩ましいのは、テーマの課せられない、ニュートラルな曲かもしれない)
まず、楽曲構成は
イントロ
ピアノ
ピアノからコーラスパート
低音ブラスと、エピックなドラム
Aパート
sus4中心のパート どんどん転調していく
Bパート
メインテーマのマイナー調版の歌が入る。
最初はボカロで作っていました。
Cパート
イントロ部分に戻る
弦のピチカート。トレモロ
低音ブラスとエピックなドラム 弦
Dパート
sus4中心のパート どんどん転調していく
Eパート
合唱パート 4声のコーラス 和声的な
Fパート
明るい音と、クラスターのピアノ
半音階的な不安定な音
低音ブラス
Gパート
メインテーマのマイナー調版の歌が入る
低音ブラスが動いたり、ホルンが入ったり
Eパート
イントロのピアノに戻る
(裏でシーケンスの細かい音が鳴っている)
リタルダンドして終わる
この曲の場合、ゲームの最終盤付近のバトル中の展開があるもので、
尺がある程度聞かされているものの、まだ確定できる段階ではないタイミングで、収録は終わらせる必要がありました。
CDでは不自然な間(ブレイク)・ゲームでは重要な間(のりしろ・余韻・余白)
ゲーム中では、配信の構成にあるような、それぞれのパートの間(長い全音符だけの部分)はオーバーラップして再生されます。
ミックスをお願いするときに、インタラクティブな楽曲の場合、途中でループしないといけないのですが、
頭につながるように2週分にすることが多いのですが、
この曲の場合は総尺が長いため、余韻部分を収録する形にすることで、次にどの展開に進んでも破綻しないクロスフェードが可能になります。
頭につながるように2週分
というのは
A A B という形にすることで、
AからA頭につながる部分
AからB頭につながる部分
が収録できます。
インタラクティブミュージックの収録ではよく行われるテクニックかと。
もし、AからCなどもっと複雑な遷移が必要な場合があれば、
この曲みたいに余白を用意したり、
遷移部分だけを別で収録なども必要になるかもしれません。
ミックスデータがステムであることの利点
ゲームで使用するデータが、ステムであると、便利なことが多いです。
インタラクティブな音楽に変更することで、一番気をつかう部分が、
楽曲の再生位置がループする、遷移する部分の不自然さをいかになくすかになります。
例えば、
AとBのパートで。
ドラムなどで、B頭にシンバルが入っていたりすると、
AからAに遷移するときに
一瞬シンバルのアタックが聞こえて遷移してしまう といった事故が起こりえます。
ドラムであれば、繰り返していることが多いので、頭にドラムなしの部分を拾って再構築ができます。 ちょっとパズルです。
Aの頭とBの頭が、全然違う場合・もしくは、遷移先が固定出ない場合は、
共通の頭部分を間に入れても問題ないような作りにします。
こうしておくことで、多少は収録の手間を軽減できる場合があります。
どこでも切れる曲も作れる・カロリーは若干低いが音楽展開も制限される
余談ですが、ブレイゼンブレイズのクローゼットのBGMは小節単位でどこで切っても、曲の最後の音につながるので、ちょっとおもしろい。
(クローゼットから抜けるときに、同じコードを急に弾いても音楽破綻しない)
これは、キーが同じという点があります。
もし、途中で転調とかしていると、戻すのに苦労(戻るためのブリッジ)が発生します。
例えば、
Bの頭がAと同じコードなら良いけど、
Bの頭が違うコードだと、不協和音がループ時に毎度鳴る
という事故が起こります。
不協和にしないための展開部分を入れても良いのですが、パズルです。
間にいれる部分が長すぎても、音楽の変化の追従性が低くなるため、
曲のテンポや演出の時間など、特にモーションやフェード時間と連携の場合、展開の秒数(フレーム数)がどうか、など、曲のBPMの影響もあります。
どうしても難しい場合は、ドラムフィルを入れたり(ちょっと入れるとかなので、不自然さを気づかれないように変拍子にするとか)
まとめ
今回は、インタラクティブミュージックの時間軸の話を中心に、技術的な話ができたかと思います。
普通の曲作りと違うのは、のりしろ部分を意識する。
これをうまくクリアしてゲームに違和感なく実装できていると、至福。
というマニアックなお話でした。
次回も今回とは違うテクニックが話せたら幸い。