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無事是名馬 高貴な死より卑小な生を選ぼう

 自分にとって大切なことというタグを見つけましたので一筆啓上したいと思います。

 自己紹介エントリーでも書きましたが私は精神障害者です。
 統合失調症を発症したのが24歳ですから16年以上随分ながいお付き合になります。初期症状の睡眠障害は21歳頃ですからもっとながいですね。

 それまでの自分は常に全力、身体ならびに頭をフル回転。
 凡人なりにベストを尽くしてきたつもりです。

 自分には出来る。自分なら出来る。
 繰り返し繰り返し暗示をかけました。

 結果的にそれが原因で不眠症状から幻覚妄想までいたりました。
 24歳から5年間。本来ならば仕事が楽しくなり、収入も増え社会人として一番充実した時期である時、私は自分の部屋か入院病棟の中でした。

 24歳までは一番文筆業への憧れが強い時期でもあり、エディタの前で七転八倒、苦悶していたことを思い出します。

 もっともその強い自己肥大の衝動が高校卒業後の自衛隊生活を乗り切れた原動力でありましたから、全否定はいたしません。

 さて表題の「無事是名馬」は日本人の競馬関係者が作った造語で現在でもよく使われます。例え傑出した能力がなくとも健康で永く活躍する馬こそ評価されるべきだという教えです。

 もう一つの「高貴な死より卑小な生を選ぶ」とはJDサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」からの引用で主人公が恩師を訪ねたときにかけられた言葉と記憶しています。うろ覚えですが

「未成熟な人間の特徴は困難にあって高貴な死を選ぶ、反対に成熟した人間の特徴は高貴な死を選ぶ点にある」
だったでしょうか。
 読書好きの方。また攻殻機動隊SACでも引用されたのでアニメが好きな方は知っているかもしれませんね。ちなみにこの言葉を残したとされる精神分析学者ウィルヘルム・シュテーケルとはサリンジャーの創作なのだとか。

 横道にそれました。私の二十代前半は間違いなく未成熟な人間でした。
 死を恐れないフリをした虚勢を張った若造です。
 人からのさげすみも創作の糧となると言い訳をし自分を追い詰め不義理を重ねることをなんとも思わない。ゲスな人間のできあがりです。

 ここまで書いて私の言葉に嘘があったことをお詫びします。

 さきほど「凡人なりにベストを尽くした」と書きましたが、その頃の自分は自身を「特別な人間」だと思っていたのだと今ならわかります。

 だからこそ身の丈を外れたオーバーワークをし、恐慌を来したのです。

 精神疾患になって初めて無力な凡人以下であることを悟ります。

 そこからはガラガラと崩れ落ちた自己とはなにか?という命題と向き合いながら再構築の作業です。何百もあるパーツをつなぎ合わせる途方もない作業。それに5年間かけたといっても過言ではありません。

 小説を書きたい。
 それには生活基盤を整えること。
 まずは仕事を見つけ定期的な収入を得ること。
 そこでのコミュニケーションでインプットを充実させ執筆する。

 このロードマップを常に胸に刻み。
 幻覚妄想と戦い今に至ります。

 昔の私を知る人が今目の前に現れたらきっとこう言うでしょう。

「君は本当に高橋君か?」と

 今年3月を迎えると41歳になります。

 長い長い旅路の果てにようやくたどり着きました。
 私は今、存分に文章を書くことができるようになりました。

 私にとって大切なこと。

 それは「健康な精神」です。

 若い人から悩みを聞かされた時必ずいう言葉があります。

「壊れる前に全力で逃げろ。先のことはその後で考えろ」です。

 精神を壊してまで続ける意味のある努力などこの世にはありません。
 よく芸術家の半生でアルコール依存症だったとか薬物中毒だったとか欠陥指摘がありますが、それはそういう疾患を持っていたから芸術家なのではなく、疾患を持っていながら活躍されたとるべきです。

 これが出来なければ死んでもいいとは逃げの言葉です。

 例え鶏口となるも牛後となるなかれ

 皆様が健やかにすごされることを祈ります。

 令和3年2月20日(土) 拝

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