薪ストーブのある暮らし
都会で薪ストーブを備える住宅は珍しかろうが、山暮らしにおいては一般的だ。
当施設の近隣の家々にはたいていストーブの煙突が立っていて、冷える時期には、朝に晩にゆらゆらと白い煙を立ち昇らせている。
当施設の母屋にも比較的小型の鋳物製薪ストーブが備わっており、主力暖房として概ね10月中旬から5月下旬くらいまで稼働している。
DOVRE ROCK 350TB
鋳物の薪ストーブは国内外多くのメーカーが製品化していて、その選択肢は豊富だ。可燃ガスを還流させる『二次燃焼』構造は必須として、あとは部屋の広さに合わせた大きさ、予算、そして好みのデザインで選ぶことになる。
当施設に導入したのは、ベルギー製の DOVRE ROCK 350TB 。ドヴレ社はノルウェー発祥の鋳物メーカーで、多様なデザインのストーブをリリースしている。品番の『350』は炉内に収容できる薪の長さ35cmを表す(実際は45cmまでOK)。導入価格は、煙突設置まで含めておよそ80万円だった。
* ROCK 350 は現時点で廃盤になった模様
ドヴレの対抗馬として検討したのが、ノルウェーはヨツール社の JOTUL F305 。なんともいえない曲線構成によるレトロモダンなデザインが個性的。やはり、北ヨーロッパの製品はデザインが秀逸だ。
このモデルは収容できる薪の長さが30cm(最大41cm)とやや小ぶりで、薪をより短く玉切りする必要があり、効率が悪いことから採用を見送った。
価格はドヴレと同等だったと記憶している。
薪ストーブは主暖房になりうるか
薪ストーブのカタログには『出力』、『燃焼効率』など、機種ごとの暖房能力を示す数値が紹介されている。…が、能力単位を『kW/h』 や『kcal/h』 で表示されても、それがいかほどなものなのかは非常にわかりにくいというか、ぜんぜんイメージがつかない。
薪ストーブを主暖房とする場合、このあたりはたいへん気になるところだ。
当施設では、居住部分の平面積約40㎡(約12坪=24畳)、空間体積おおよそ90㎥ の母屋で、定格出力 7.0kW の DOVRE ROCK 350TB が問題なく主暖房として稼働している。
ドヴレ社のカタログによると、ROCK 350 の「暖房目安」は「〜69㎡」(約20坪=40畳)となっており、数値的にもじゅうぶんに実用範囲であることがわかる。
居室の広さや構造にあわせて適切な機種を選べば、薪ストーブのパフォーマンスは主暖房としての必要条件を満たしているといえる。
…というわけで、薪ストーブは主暖房となりうるかといえば、スペック的にはなりうるのだが、実際の運用にはそれなりのハードルがある。
薪ストーブを主暖房とすることのメリットとデメリット
一番のハードルは、ストーブを稼働させるためにいちいち火を熾して薪を燃焼させなくてはならない、という手間だ。これが稼働ごととなると、それなりに面倒である。さらに、厳冬期で室温がひとケタになるほど冷え込んだ朝は、部屋全体が暖まるまでに一定の時間を要する。
コスト面にしても、薪を購入する場合はガスや灯油よりも高くつく。当施設のように、山暮らしで薪が潤沢に手に入るならいざしらず、一般的には、薪ストーブは豊かな空間を演出する一種のインテリアなのかもしれない。
<メリット>
暮らしが豊かになる(気がする)
遠赤外線効果でカラダの中から暖まる
燃料費がかからない(薪がタダなら)
サスティナブルな暖房
<デメリット>
点火が面倒
部屋が暖まるまで時間がかかる
灰を掻き出す際に部屋が汚れる
灰の棄て場所を確保しなければならない
最低でも半畳分ほどのスペースを通年占領する
薪の置き場を確保しなくてはならない
薪割りが重労働
年に一度は煙突を掃除しなくてはならない(委託の場合2.5万円程度)
…このようにまとめてしまうと、やはりデメリットのほうがはるかに多い。
薪がタダ同然で手に入る、ということでもない限り、薪ストーブは扱いが面倒な高コストの暖房機器ということになりそうだ。
薪ストーブと灯油FF暖房との経済性を比較する
当施設のある『北海道余市郡赤井川村』は、道内でも屈指の豪雪地帯で、冬の冷え込みも厳しい。毎シーズン、10月下旬から翌年5月下旬までのおよそ7ヶ月間強が暖房期間となる。ピークは12月中旬から3月下旬までで、この間は日中も火を焚くことが多い。
薪ストーブの薪の消費量は、今シーズンの実績で概ね6立米(6㎥)だった。ただし、薪にしている間伐材はほとんどが火持ちの悪い白樺なので、ナラなどの硬い薪であればその2/3の4立米くらいで済んだかもしれない。
以下のサイトを参考に、薪ストーブの燃料コストを算出すると、年間4立米(3,280kg)として156,800円(送料別)となる。かなり高額だ。
当施設では灯油FF暖房も備えているが、早朝の短時間しか使用しておらず、いまのところ連続運用の確たるデータは存在しない。一般的には1週間で灯油18Lを消費するといわれているから、薪ストーブの稼働実績から概算して、ひと冬で400L近くの燃料が必要になると考えられる。
昨今の原油高により、北海道の配達灯油の相場は122円/Lほどと高値ではあるものの、それでも灯油による暖房費は年間5万円前後といったところか。
このように、燃料を購入する場合、薪ストーブはとんでもない高コストな暖房機器となってしまう。山暮らしで薪が潤沢にあったとしても、運用や維持管理コストを考えると、実際は灯油FF暖房と大差ないとも思える。
…とはいえ、一日の終わりに、ゆらゆらと燃える火を眺めながらワイングラスを傾けるというのは、なかなかにして味わい深い過ごし方だ。しかも、山暮らしなら燃料コストを気にせずにそれを満喫することができる。
このような至福があるからこそ、山暮らしはやめられない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?