見出し画像

宇賀村直佳さん(稽古ピアニスト)に10の質問!

 ミュージカルに関わる方々に、これまでの歩みや仕事について伺う企画『Into the Musical』。Vol.1は『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』など、数々の作品に関わって来られた稽古ピアニスト宇賀村直佳さんです。

 5回に渡ってお届けしてきたVol.1のラストとなる今回は、宇賀村さんに10の質問にお答えいただきました!


【前の記事へ】
1-4 ミュージカルの稽古ピアノのはなし(後編)
1-3 ミュージカルの稽古ピアノのはなし(前編)
1-2 ライフストーリー(後編)
1-1 ライフストーリー(前編)




■ 宇賀村 直佳(うがむら なおか)

国立音楽大学卒業後、青年海外協力隊に参加。
2年間ザンビアの大学に音楽講師として派遣される。
帰国後は、数々の舞台で稽古ピアニストを務める他、ライブやイベント、ミュージカルでの演奏活動も行っている。
稽古ピアニストとしての主な参加作品に、『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』『エリザベート』『Tootsie』『VIOLET』『ベルサイユのばら~半世紀の軌跡~』『Endless SHOCK』などがある。


【Q.1】 これまでで最高の経験は?

オリジナルスタッフとご一緒できたこと

 「『エリザベート』で、作曲家のシルヴェスター・リーヴァイさんの娘さんやオリジナルの指揮者の方と稽古場でご一緒できる機会があったんですが、疑問に思ったことを伺えたり、帝劇の稽古場のソファーで、演奏に合わせてふわっと何気なくされた指揮が素晴らしくて。すごく勉強になったし、刺激をいただけて、いい経験でしたね。

 一方で、コロナ禍の『メリー・ポピンズ』では、イギリスのスタッフ参加の稽古がほぼリモートだった時期もありました。
 その時は、”うまく(インターネットが)繋がらない“、”スタジオがダブルブッキングで使えない“などハプニングだらけ。でも、反転した画面で、何十人といるダンスの複雑な振付がどんどん形になっていった時は“本当に凄い!”と思いました」


【Q.2】 仕事場に持ち込む必須アイテムは?

メトロノームのアプリ

稽古場では、音ではなく光(上部の緑色の円が交互に光る)でテンポを把握する。

 「曲がたくさん繋がっている場合、メトロノームのテンポ設定を変える時間がないことも多いので、前はピアノの周りにたくさん(メトロノームを)置いてやっていたこともあるんですが、1作全部の曲のテンポが登録できる画期的なアプリができました!
 タップするとテンポを変えられるだけでなく、流れている音楽や歌のテンポを出せる機能もついています」


【Q.3】 仕事で落ち込んだ時の対処法は?

 「仕事での落ち込みは仕事でしか取り戻せないと思っています。
 稽古ピアノでの失敗は、たとえば、求められていることに応えられなかったとか、自分の中の問題が殆どです。

 だから、そういう時は、今の演奏がどうだったのかを信頼できる先輩方に聞いて、とことん言ってもらう。変なプライドを捨てて、正面から向き合うと決めています。すごく耳が痛いこともあるけど、変わりたかったらそれしかないんですよ。

 1人立ちすると、段々言われなくなってくる。だからこそ、自分の癖や見えていない部分を言ってもらうことは、何が駄目で何をすべきかをクリアにする貴重な機会です。
 特に現場に支障がない場合は、何もなかったようにその場をやり過ごすこともできるけど、私は研究者に近いコツコツ型なので、日々謙虚に取り組むことでしか報われないと思っています」


【Q.4】 コロナ禍を経て、今の思いは?

 「コロナ禍は毎日のようにPCR検査をしたり、3ヶ月間、完全に仕事ができなくなった時期もあり、"もしエンタメ業界が永遠に復活しなかったらどうしよう"と考えては不安に駆られて落ち込みました。

 でも、今は舞台の仕事に携われて、家にこもらずに生活できる。改めて、当たり前のことが本当にありがたくて幸せだと思えるようになりました」


【Q.5】 これからの夢は?

・プライベート

 「ツアーじゃなく、自分の足で土地を見ることが好きなので、国内外問わず色々旅したいです」

・仕事

 音の追求。それが少しずつ自分の表現に繋がって、オケの音楽に近づいていくことで、周りから求められるピアニストになれたら。それから、"出会えて幸せ!"と思える作品に1つでも多く出会いたいです」

・人として

 「全ては捉え方次第。人生を豊かに捉えられるように、特に心の面で豊かに生きたいです」


【Q.6】 ミュージカルの魅力とは?

 「魂を込めて演奏することで、作品の世界を体験している感覚があるんです。異次元の世界だけど、その瞬間はリアリティがある不思議な感じ。そこが一番の魅力かな」


【Q.7】 日本のミュージカルの魅力とは?

 「世界でも評価されている日本のクオリティーの高いアニメを題材にできること。日本の作品はなかなか海外に出ていかないと言われますが、バンバン輸出できたら素敵ですよね」


【Q.8】 日本のミュージカルの課題とは?

 「ちょっと敷居が高いかなと。スタッフとして中にいるから、予算がかかることも理解できるんですが、チケットが高いと、元々ミュージカル好きな人以外は、多少興味があってもなかなか観る機会を持ちづらい
 システム上、根が深い話だとも思いますが、もっと気軽に観られれば、たとえば装置や照明など、公演に関わるさまざまな分野にまで関心が広がり、お客さんの眼も肥えていって、業界全体が育つという好循環になるんじゃないかな」


【Q.9】 現在と今後の予定は?

 「今は『Endless SHOCK』『RUNWAY』の稽古中です(※編集者注:10月末取材当時)。『Endless SHOCK』は、帝国劇場としても公演としても最後になるので、忘れられない年になるんじゃないかなと。みんなも色々な思い入れがあると思うので、共に頑張ります。宝塚歌劇団100周年の頃のトップスターたちが集結する『RUNWAY』は、久しぶりのきらびやかなショーの世界なので、楽しみたいです。
 そして、来年は『屋根の上のヴァイオリン弾き』『ダンス オブ ヴァンパイア』で始まる予定です」

※ 各公演のホームページはこちら🔽
『Endless SHOCK』 https://www.tohostage.com/shock/
『RUNWAY』 https://www.umegei.com/runway2024/
『屋根の上のヴァイオリン弾き』 https://www.tohostage.com/yane/
『ダンス オブ ヴァンパイア』 https://www.tohostage.com/vampire/


【Last Question】

あなたにとって、ミュージカルとは?

 ”心の旅”です。自分の出す音で、役者と一緒にその空気の中に立って共演するような体験や、ストーリーの中で時空や場所を超えて自由に『旅』ができる。
 それから、音を追求していくという意味での『旅』。こちらは、楽しみながら模索しつづける、答えのない旅です」


― 取材を終えて ー

 挫折を経て、ピアノへの思いをより確かなものにした幼少期。ザンビアの地で音楽環境の充実に向けて奔走する中で、かけがえのない出会いと気づきを得た青年海外協力隊での2年間。そして、ミュージカルの稽古ピアノという奥深い仕事を通して、今はもちろん、この先も続けていくであろう音の追求。

 今回のインタビューを通じて心に残ったのは、目指すものに向かってどこまでも直向きに。しかし、ただまっしぐらに突き進むのではなく、持ち前の好奇心を携えて、どんな時も「今」という瞬間をじっくりと味わいながら歩む宇賀村さんの生き方だ。

 稽古ピアノの話【後編】では、「お客さんに拍手をいただくまでの過程」にやりがいを感じると語ってくださった宇賀村さん。稽古はもちろんのこと、これからの人生においても、喜びや感動、ハプニングやつまずきも含めたすべての道のりを満喫しながら、彼女らしく歩み続けていくことだろう。

 そして、その軌跡と音楽にかける情熱は、ミュージカル作品を織りなす音色に宿って舞台へと引き継がれ、今日も多くの観客の心に届いているのではないだろうか。

Vol.1(完)

【企画・取材編集・撮影:Tateko】

※記事、写真の無断転載はご遠慮ください。


【前の記事へ】
Vol.1-1 ライフストーリー(前編)
Vol.1-2 ライフストーリー(後編)
Vol.1-3 ミュージカルの稽古ピアノのはなし(前編)
Vol.1-4 ミュージカルの稽古ピアノのはなし(後編)


<編集後記>

 『Into the Musical』Vol.1を読んでくださり、どうもありがとうございました!各方面から温かいご感想をいただき、感謝しております。

 そして、ゲストの宇賀村直佳さん。対面取材後も「追加でお伝えしたいことがあったから…」と連絡をいただくなど、公開までのすべての行程に熱意を持って臨んでくださり、"初回を宇賀村さんにお願いして良かった!"と何度思ったことか。この場を借りて、心より御礼申し上げます。
 宇賀村さんの謙虚で誠実なお人柄と音楽への深い想いが、記事を通して読者の皆さまに伝わりますように。

 また、超マイペース更新ながら、当企画では今後もさまざまなセクションの方にお話を伺っていく予定ですので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!

〈Tateko〉

( ロゴ・ヘッダーデザイン: 大槻ゆか )


いいなと思ったら応援しよう!