「ガンダム」は何を売ってきたのか
会社に出勤するため、いつも通りJRに乗って専門誌「ガンダムエース」をひらいた。そういえば、JRの各駅でスタンプラリーみたいな企画をやっていたな。ふと目をやると、車内吊り広告に「白い悪魔」ビールのうまそうな宣伝がある。帰りに買って帰ろうと思いながら、財布の中にあるガンダムVISAカードを確かめる。
もう年末、クリスマスはグランドニッコーホテルでユニコーンの立像を見ながら過ごして、初詣は、シャア専用オーリスで、ガンプラが奉納されている久能山東照宮にでも行くかなあ……。
どこにでも転がっていそうな日常の心象風景のひとコマだが、驚くなかれ、ここに出てくる各種商品・サービスの中心ともいえるコンテンツが、本書のテーマであるIP「機動戦士ガンダム」だ。
実はガンダムとは、「現代日本のコンテンツビジネス」の幅を一貫して広げてきたタイトルに外ならない。
ガンダム以前のロボットアニメの典型的なビジネスモデルは、主役ロボットのダイキャストモデル、そして関連キャラクター商品だった。1979年以前は、ロボットが登場するアニメのビジネスモデルは、そういう子供を中心としてその親に財布を開かせることで成立していた。そして、それが1979年を境に、いや正確にはその数年後以降に徐々に変化していったのだ。
その結果として、ガンダム関連の商品は、恐ろしい広がりを獲得している。具体的には、映像作品のシリーズ化と派生作品の増大がまずある。またそれらが、新作映像作品の入り口、プロモーションとしての役割も果たす。
さらに、そもそもの中心的商品であるガンプラすら、模型ファンのアイテムであると同時に二次的三次的な役割を果たしている。
そしてそのガンプラが、爆発的なブームになりえた根本的な要因は、実は団塊ジュニアの出現タイミングだった。
1979年当時には打ち切りで終わったコンテンツが、45年も継続されているのは、コンテンツそのものの力もさることながら、奇跡的にぶつかった人口増のタイミングであり、また、軍記物やミリタリーモデルや仏像(!)であり、アニメ文化の隆盛であった。さらには、それらを見ながら成長した世代が責任あるポストに就くだけの年月の経過もあった。 その結果、ガンダムのIPを活用した製品やコンテンツが、どうなったのか。以下の本文でそれを見ていこうと思う。
ちなみに蛇足だが、この一文は、『現代語訳 論語と算盤』(渋沢栄一 守屋淳訳 ちくま新書)の序文にヒントを得ている。