夜記(よるき)(15)
何もないところに住んでいる男の人がいます。
若かりし頃にちやほやされて、ワガママで贅沢で、今もお金がたくさんあって、仕事も頑張っているけれど、夜一人でいると黙って何も食べないからといって、人の声を聞きに店屋の通りへ出てきます。
10月20日 水曜日 晴れ 寒い日
わたしならきっと悪い友達にはならないでしょうが、わたしはいつも笑うだけで友達にはなれません。
旦那さんの言うところによると、女は関わると傷つくのでまともに話が出来ないという。その割に一人で面白おかしいことを大声で喋り続ける。
同じですよ。ひっくり返せばみんな同じ。傷ついたんだか傷つけたんだか。友達だって。女に限ったことじゃありません。と言っても、惚れた腫れたで傷つくそうです。
女は何か溜め込んでいて、そのくせ考えもしないでその場の感情で大事なことを決めてしまうだそうです。確かに。
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旦那さんは夜中、電源の入っていないテレビに映る元の亡くなった持ち主と会話をするというのが目下の滑り知らずの笑い話です。
わたしも面白くて仕方がないけれど、女だから中々友達になりません。
それから「飾りになるようでないと友達をするのが難しい」というので、わたしは「馬鹿なことを言う」と笑います。
真実だと、真実恐ろしい。ひとりぼっちで真夜中に、過去と未来が行き交ってひとりぼっち。
だからひとりぼっちでゆかないように、わたしがついているよと、同じ夜の人たちにわたしは外では言わずに、思う。
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何だったら怖いでしょう。わたしは自分の苛立ちが少し怖い。
華やいできた町の灯りも、連れ立って歩くことの華やかさにも構わないで、なんでこう、大事な感情ほど伝わらないでしょう。
悪い人間の振りでもしないと信用なりませんか。悪口を言わないとなりませんか。
ずっと冗談です。聞こえるのはずっと冗談ばかり。悪口も冗談。
本当のことをいつどこで言ったのかよくわからないまま、たくさんの人が流れてゆく。ので、誰の何になるでもなく、どこにいても砂場で遊んでいる調子で真っ直ぐ話すくらいしか、あなたがたを大切に出来る方法を知らない。
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わたしは寒い部屋へ戻って、微笑みを待つ自分の本心に少々傷つく夜がある。
あのね、店屋を閉めるときに真面目に内側から扉を閉めて、間違いに気づいて慌てて扉の外出たら「もうお家のつもりだったの?」とお嬢さんたちに笑われた。
それから、これを書き終わった後に消してしまってもう一回書きました。
十五日目。終わり。