夜気(よるき)(7)
水至って清ければ、則ち魚なし。人至って察なれば則ち徒なし
とはいえわたしの生きる道は結局のところ、心根清らかなまま生きる術を得た大人に倣うしかないものです。だからしっかり生きなければ、いづれは物笑いとして命を落とすことでしょう。
10月12日火曜日 雨
このビニール傘をわたしはうっかり失くしてしまいたくない程気に入っている。いつも65センチではなくて70センチを買えば、こんなに失くさなかったのかも知れない。他のビニール傘より気に入っている。
このビニール傘はつるんとしている。巻くときもするすると丸くなって、素直にわたしの傘でいてくれる。わたしは巻き終わった後も手の中で傘を何回もくるくる愛おしみます。
馬子にも衣装。ビニール傘にもわたし。わたしにもビニール傘。
ビニール傘のガサガサしてないときの透明を損なわないような、透き通った人間に憧れたことはありませんか。
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まだ殺人事件も起こらないし、狂った人が人生を狂わせたことをわかりやすく記せることもない。わたしの記憶は美しく生きた人やものでいっぱいになって、年々おどろおどろしかったものが何処かへ消えていっている。
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透明と、優しさと、弱さは混同されやすいから、自分でも混ぜないように気をつける。何れも混ぜて使うと猛毒で、君のキラキラした瞳も、瞬間接着剤を塗ったガラスになってしまうでしょう。
どうすればいいか、考えたけれど、まだ途中。
あまりにも澄んだ水には、わたしの足など浸せない切ない気持ち。
わたしがその水だったなら、きっと寂しいのだけど。
意地さえなければ変幻自在だから、また歩こうわたしたち。
七日目。終わり。
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難しいです……。