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夜記(よるき)(18)
古い本がずっと好きだった。
十歳を過ぎて、あの頃からずっと後悔しないように、その日に話したいことを全部みんなに話せたらよかったけれど、友達が多すぎることが原因で砂場に埋められてからは、楽しくなさそうな誰かがいればすぐ気付くようになった。
わたしは気づく度に喋るのを止して、一人で校舎の中を探検するようになった。
10月23日 土曜日 晴れ
(砂場に埋められたときのことは笑い話だから、いつかお話します。わたしが元気にこんなものを書けているうちに。)
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当時わたしが通った小学校の、校舎の二階か三階か、中庭側の、日当たりの強くないところに図書室がありました。
中に入ると、カーテンが閉めてあって薄暗く、休み時間の図書室には静かな図書室の先生以外誰もいない。
少し古いインクとカビみたいな匂いがする中で、いろんな本を開いて面白いものを見つけると、静かな図書室の先生のところへ持って行く。
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教室や部屋に借りた本を持ち出してきて、読んだり、匂いを確かめる。本は図書室と同じ匂いがした。ときには本を開いただけでその匂いがした。
本の中では知らない人が、わたしと同じことを思ったり、とんでもないことをしたり、憧れるほど賢かったり、何よりどんなにお喋りでも面白くて、わたしは安心した。
古い本の文字の形は、教科書のとは違っていた。
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本を開いて、顔を近付けて匂いだけ確かめていると、たまに級友が「何してるの?」と訊ねてくることがあった。
わたしは嬉しくなって「古い本はいい匂いがする」と説明していた。
匂いを嗅ぐと、大抵の級友は笑ってた。いい匂いとおもった子も、不思議な匂いとおもった子も、くしゃみをする子もいた。
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たまに図書室へついてくる子もいた。けど一度か二度ご一緒しても、気がつくとまた一人で図書室で本漁りをしていた。
十五歳を過ぎて、図書館以外で学校の図書室と同じ匂いのする場所を見つけた。
それは個人で昔から営んでいるような、古本屋さんだった。古本屋さんで買ってきた保管の良い本は、お喋りな匂いがして、やっぱりわたしは安心する。
十八日目。終わり。
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