夜記(よるき)(9)
本の上にある字が見えてこない。想像上の、まだ存在しない本の頁を書き写しているときに、記憶の中の立派な作家さんが「純度の高い小説か、或は商魂剥き出しの……」か何か毒舌の理屈を書き上げているのをつい書き写そうとしてしまう。
10月14日 木曜日 晴れ
空は一日ごとに季節を変える作業を繰り返して、あまり半袖の人を見なくなった。
君よ、今日のわたしは心を閉ざしてる気がするから、わたしはあまり嬉しくありません。
理由を考えるのはよしておくけれど、愛を注ぐというよりぶつけてしまいそうで怖い日です。
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自身の何がどんなものに役立てられるのかと算段していると、巨大ガラス管の中の培養人間になった心地がする。
誰かに采配を振るって欲しい気持ちが、桜田門を見るたびに安心した理由、だったかも知れない。あの門の外で人が死んだのに。
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君を見失わないよう、一緒に見たように、車窓から見えた看板のうち気になったものを読み上げてゆく。
字が斜めになることを「わたしは字を絵のように捉えるから」と説明していた中学の友達の声を思い出して、自分を説明する言葉をずっと探してまだ持っていないけれど、おもうだけはおもっています。
九日目。終わり。
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難しいです……。