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#6|神戸の話|2024.09.05

安田謙一『神戸、書いてどうなるのか』

神戸に住むようになってから10数年。もう数年経てば、人生の半分以上を神戸で過ごしたことになる。

神戸ポートタワー、六甲山、鉄人28号の巨大モニュメント、元町映画館、野生のイノシシなど、神戸がテーマの800字ほどのエッセイが108つほど収録されてて、おなじ神戸在住の人間として楽しく読んだ。

大学時代には、この本に出てくる口笛文庫や、サンボーホールの大古本市で時々バイトさせてもらってたので、店主の顔がぱっと思い浮かぶ古本屋さんの名前がたくさん出てくるのも、懐かしい(そして、あとがきで書かれてた件、驚きとともに残念でなりません)。

この本と、六甲登山を描いた松永K三蔵の小説『バリ山行』の芥川賞受賞との相乗効果で、今年の夏は街の書店の棚が、神戸関連本ですこし賑わってた。

本書にも、神戸が舞台の作品が多く登場する。それ系だと自分は、KIITOで濱口竜介『ハッピーアワー』観たときと、山本さほ『この町ではひとり』を読んだときは、神戸に住む人間で良かったとマジで思った。

ところで安田は、神戸在住のSF作家・筒井康隆を取り上げた回で、筒井の「日本で、いちばん地震の少ない所は兵庫県なのだそうである」という一文を取り上げ、こう書く。

阪神・淡路大震災に遭う前の神戸人のニュートラルな意識は、確かにこうだったのだ。わざわざ口にさえ出す必要もなかったことを、こうして活字として残していることに、作家のひとつの役割を感じずにはいられない。安全な場所などないのだ。

本書にも通ずる話だろう。本書でたびたび目にするのは、紹介された店名のあとに付記される「現在は閉店」という注意書きだ。誰かの日常に当たり前に存在したものも、誰かが記録していなければ、すぐ忘れ去られる。

「わざわざ口にさえ出す必要もなかったことを、こうして活字として残していること」こそが、本書の真価だ。自分もそれをやれたらと思う。

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