若き語学の達人が、自分の好きに立ち向かう姿が天晴れで、やっぱり書くことが大切だって思うにいたった話
最近、ニュースを目にするたび、国内ニュースの行き詰まり感、海外ニュースでの戦争への無力感にさいなまれるせいなのか、ドヨーンとしてしまうことがあります。
でもそんな時だって、やっぱり読書だよね、と手に取ったのは、図書館でずいぶんと前に予約していてやっと順番がまわって来たこちらの本。
https://sayusha.com/books/-/isbn9784865283501
「千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話」済東鉄腸・著
著者の済東鉄腸さんは、1992年生まれの現在31歳。
初めての著書です。
大学に通ってはいたけれど、キラキラした青春とは程遠い。就活にもなじめず、大学卒業後は引きこもりに。
小説さえも読めなくなって、より受け身でいられる映画を見まくる生活を送っていた済東さん。
そこから、あるルーマニア映画🇷🇴を通してルーマニア語に出会い、惹き込まれて、あとはタイトル通り、一度もルーマニアどころか海外にも行ったことがないのにルーマニア語で小説家になるまでを振り返ったエッセイです。
とにかく文章は濁流のように留まることを知らず、その流れに身を任せていると、気づくと水は澄んできてあとはザッブーン滝になるがごとしの疾走感。
壊れた愛車で雨上がりの夜空をぶっ飛ばしたかったのは忌野清志郎 、盗んだバイクで走り出したのが尾崎豊なら、引きこもりながらもSNSを駆使してグングンスピードを上げながらルーマニア語に迫りゆくのはデジタル世代の済東鉄腸!
SNSってこんなふうに使えるんだ、語学ってこうやって学べば楽しいんだという現場リポートが次々と明かされていきます。その行動力、凄まじい。
そして、好きという気持ちを大切にすることは心を伸びやかに健康にするんですね。オタクの話と言われればそれまで、かなりニッチな周辺の話もあり、全てにはついていけないけれど、読後感は、思いっきり伸びをして、さあ、私は何が好きだっけ?と前を向きたくなるさわやかな一冊です。
鉄腸さん、とにかく好きという気持ちにとことん誠実。
そこに近づきたいというエネルギーで燃料タンクはいつも満タンなので、次から次へと扉が開きます。
開いた扉の向こうからの声にしっかり耳を傾けつつ、時には扉を閉めて考えることも忘れない。
他者の姿を見て聞いて、それを自分の中で香り高く醸造して大切にしている様子にキュンとしてしまいます。
たとえば。
韓国映画を多く上映している映画館で、観客に映画の感想を聞くバイトをしている時に出会った韓国映画好きな中年女性たち。その韓国に対する熱意、知識欲、好奇心を深く尊敬しているといいます。
地元のショッピングセンターで言語哲学者の本を読んでいたら話しかけてきた男性とその学者との話で盛り上がったことを、「俺はこの瞬間の驚きと喜びを一生忘れないだろう。もし今後、俺が偉大なことを成し遂げるとしたら、それはこういう優しさと好奇心でできた奇跡のおかげだ。ありがとう」というストレートな感謝の思いの表現。いいなぁ。
もちろん、ルーマニアの方たちとのエピソードもそれぞれ愛にあふれます。それはぜひ本書で。もちろん図書館に返却後購入しました、また読み返したいですからね!
そしてなんという良縁か、東京・代々木上原に今夏オープンした本屋さん、CITY LIGHT BOOKで、済東さんが一日店長をされておすすめ本が展示されるイベント、『鉄腸のあたまンなか 100冊』が開催されていたので、おじゃましてきました。
すでにイベント時間が過ぎてしまっていたので、おすすめ本は見られなかったのですが、とても気さくにお話ししてくださって。
済東さんが読んだ本や見た映画の記録を書き留めているというエピソードが「千葉ルー」にあるのですが、そのノートを見せてくださいました。速記のような、日本語の筆記体のような、独特の文字。書くことに導かれて自分の考えが具体的になっていく感じですか?と尋ねると、自分の考えていることを整理していくために書くことはとても大切で、考えているスピードに書くのが追いつけるようにこういう字体になったと教えてくださいました。
何十冊も書き溜めたノート、そしてこの初めてのエッセイ本「千葉ルー」の執筆を通して、自分の内なる姿を見つけられたのでしょう。ポジティブオーラのこもったサインをいただいた帰り道、私も書くことを諦めないと誓ったのでした。
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