日本映画、周防正行監督『Shall we ダンス?』(1996年)
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周防正行監督の『シコふんじゃった。』(1991年)は、大いにハマった映画だったが、この映画の封切り当時は観なかった。社交ダンスに偏見を持っていたことと、仕事に行き詰まり、それどころではなかったからだ。ここに来て(2024年12月)、初めて鑑賞した。驚いたのはかなり出来が良いこと。なぜこれをスルーしてしまったのか!残念に思えた。
*サブカルとしての社交ダンス?
このソーシャルダンス、ヨーロッパにおいては、大人のたしなみとして立派な文化とされる。一方、日本では明治維新以降ひろまっていく。だが、それはいわば上流社会の話しである。とくに戦後は、一般庶民にも一部で普及したようだ。実際、私の父母はこの社交ダンスで知り合っている。母の姉、その夫は自衛官の下士官だったが、その部隊に父が赴任してきた。
誰とでもすぐに打ち解ける性格の人物だったため、社交ダンスを趣味にしていた父に、自分の義理の妹を紹介したと言う。つまり、このダンスを通じて、2人は結婚したのだ。父は会津の田舎出身だが、地元の友人と社交サークルをつくって学んだようだ。
日本人にとって、社交ダンスはちょっと敷居がたかく感じると思う。しかも女性は華やかな衣装で身を包むからいいものの、男は軟弱にも見られる。私がそういう目で実際に見ていたのだ。やはり偏った見方をしていた自分に気づかされた。
*映画『シコふん』俳優が総出演!
ちょい役だが、本木雅弘と清水美砂まで出演していた。周防監督は、主演に役所広司と草刈民生を選んだ。確かにこの映画の肝となるこの2人。役のうえから見るとバッチリと言える。いかにも、どこにでもいそうなサラリーマン。そして、幼少から鍛えてあげられたダンサーの雰囲気を醸している草刈民代である。
脇を固めるのが、同じ会社に勤める青木(竹中直人)。糖尿病治療の目的でレッスンにやってきた弱弱しい田中(田口浩正)。そして、主人公の杉山((役所広司)の浮気を疑った妻から身辺調査を頼まれた探偵の三輪(柄本明)、この3人は『シコふん』でも中心となる役だったが、今回も映画の重要な存在となっている。
この映画では、これら『シコふん』俳優に加え、さらに強力な役者を用意した。徳井優えんじる服部と、長年にわたりダンススクールに通い続けている高橋豊子(渡辺えり)だ。「引っ越しのサカイ」のCMで有名となった徳井だが、関西人のノリとツッコミの良さが出ていた。渡辺えりも、なんとも怖いオバさんを演じきっている。
*大まかな「あらすじ」?
東京都心にあるボタン会社、その経理課長である杉山(役所広司)。妻と一人娘の3人暮らしで、埼玉西部に一軒家を建てた。安定したした職についたいたもの、住宅ローンを組み、会社に身を捧げたような気分になったようだ。毎日、仕事に通うがどこか元気が出てこない。
そんなある日、帰宅途中の電車がとある駅にとまる。車窓から見たのは、女性が憂いな目をして、ビルの窓から外を見ている姿だった。なぜか杉山は、その駅に来ると、毎度のことその姿を見てしまう。窓ガラスには「ダンススクール 見学無料」と表示されていた。思いたった杉山、そのスクールに入ってしまう。
杉山が気になった女性は、舞(草刈民代)。なんとも事務的に入会について話をする。心配した高齢のレッスンティーチャーは、初心者向けコースを案内した。初めてダンスに挑戦する杉山だが、なんとそこに会社の同僚の青木(竹中直人)が顔を出したのだ。初めは舞への思いで始めたダンスだが、杉山は徐々にのめり込んでいく。しかし夫の変わった行動と、シャツについた香水により、妻は浮気を心配し始める。向かった先は探偵事務所だった。所長の三輪(柄本明)は、内定を始めるのだが……。
*映画の背景に「燃え尽き症候群」
一軒家を持つ!これは男の夢だ。ただどうだろう。返済するには30年もかかってしまう。初めは喜んだものの次第にそれが当たり前になり、肩にのしかかった借金ばかり気になり出すのだ。自分が勝ち取ったものではなく、これからは会社の下僕になるかもしれない!そんな空気に嫌気がさすと言ったところ。
元気を出すには、他の目標を見つけることだ。それが杉山にとっては社交ダンスだった。初めてやる事は誰にとっても難しいことばかり。だが、これに集中することで浮世のモヤモヤを吹き飛ばすことができる。杉山は勧められるがまま、社交ダンス大会にも出場することになった。
*まとめ
超一流の社交ダンサーだった舞。ダンスパートナーとの別れにより、日本へ帰ってきた。彼女も「燃え尽き症候群」だったと言える。父親が経営するダンススクールを任されたのだが、どうも仕事には力が入らない。
そんな舞だったが、初心者の杉山がメキメキ上達していく姿に、何か気づかされたようだ。そうだ!自分も練習に明け暮れてイキイキした日々があったことを…。別名を「バーンアウト」とも言うようだが、医者でもなかなか治療することが難しいという。そんな人への一つの励ましになった映画ではないだろうか。誰にでも起こることのようなので…。