[ 映画レビュー ]松坂慶子主演『卓球温泉』(1998年)
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昔は温泉地にいったら必ずやったのが卓球と射的。もうこれは必須だった。そして皆で盛りあがったものだ。自宅には卓球台が置いてある。なかなかやる機会は無いのだが、最近になって球とラケットをまた買い揃えた。私のなかでは卓球に愛着を持っているということなのだろう。
パリ五輪でも、卓球については真剣にみて応援をしていた。残念なことに金メダルには届かなかったものの、日本選手よく頑張ったと思う。そんなこともあってか、ネット配信でかなり前の映画『卓球温泉』を観た。検索してみると、評価は低く、内容はどうなのかな?とも思ったが、自分のなかでは満足できる作品だったと言える。
*あらすじ(ごく簡単に)
家族2人(夫と息子)から全く相手にされない専業主婦の園子(松坂慶子)。不満を言おうと、ラジオのトーク番組に電話する。そこで対応したのがDJのカナエ(牧瀬里穂)。話をするとあろうことか、カナエは「だったら家出しちゃいなさい」と話した。これを聞いた園子、本当にそれを実行する。夫の車で向かった先は、新婚旅行でかつて訪れた温泉地だった。
途中、故障した車に遭遇する。乗っていたのは、温泉旅館経営者の面々。園子は、彼らを自分の車に乗せてあげる。車内では、客の減り続けている温泉街の状況をどう打開するかの話しだ。運転免許とりたての園子、崖に車をぶつけ動かなくなった。
そこになぜかカナエの車が通りかかり、全員を連れて温泉地まで連れて行った。驚いたことにカナエは、園子が宿泊しようとしていた宿、その経営者の娘だったこと。母(宿の女将)の急逝により、今後旅館をどうするか?その打ち合わせで帰ってきたのだ。ただ園子、家出をそそのかしたDJとはまだ知らない。
…………この後、卓球で温泉街の町起こしをやろうという計画ができ、園子はそれに関わっていくこととなる。
*映画『Shall We ダンス』との関係?
『Shall We 』では、中年サラリーマン(役所広司)がたまたま社交ダンスを目にし、ダンス教室に入って技を磨いて大会にまで出るという話し。家族には妻も娘もいたが、心になにか欠けていたことが動機だったようだ。
一方『卓球温泉』、これも専業主婦の園子、なに不自由のない生活だったものの、家族には不満を持っていた。ニ人とも自分にまったく関心がないのだ。カナエにそそのかされ、夫との思い出の旅館にいくことで何かを探していたようだ。旅先で夫とやった卓球、なにかを思い出す。そう!楽しかったあの日の思い出を…。この映画の監督・山川元は『Shall We 』にも関わった人物。多分この映画を下敷きにして脚本を仕上げたものと思われる。
周防監督、彼の映画のタイトル、どれもセンスの良さがうかがわれる。一方で、この『卓球温泉』はどうか?タイトルそのものに物語のストーリーが出ている感じだ。この映画を見ていない人、数人に聞いてみた。「どんな映画だと思う?」。すると「温泉で卓球をやり、その人たちの人間模様じゃない」との答え。ズバリ話しを言い当てていた。やはりこのタイトル、問題があったように思う。
*映画の見どころは?
⑴老舗旅館『高田屋』の若主人・公平(久塚洋介)と、園子との卓球。元卓球部だった公平、相手が打ち返せないような強い球をうつ。これにたいし園子、「卓球は相手を思いやることが大事」と諭す。施設内に掲げられていた額には『継続は力なり』の一文があった。
… [評]なるほど、卓球を健康スポーツと考えれば、そういうことになる。これは名言だ。
⑵ DJのカナエ、車で自宅に帰るというので、園子は一緒に乗せてもらうことになった。その道中で、カナエの一言。「だから専業主婦はダメなのよ」。前をノロノロ走るダンプカー。かなりの荷物を乗せているのだろう。これでは遅い。しびれを切らし、クラクションを何度も鳴らすカナエ。おこったトラックの運転手(六平直政)。議論となりカナエをつかみ上げた。そこへ園子が駆けより、カナエに文句をつける。「専業主婦だってやれるのよ」と…。呆気にとられたニ人だが、園子は荷物をもち、ふたたび温泉に歩き出した。
[評]さすがコワモテの六平(むさか)。その迫力に驚かされたが、それ以上にこの場面には仰天。専業主婦・園子、その逞しさだ。
⑶カナエの母(老舗旅館の女将)が大事にしていた玉手箱。園子が帰りにカナエの車にもち込んだものだ。母からは開けてはいけないと言われていたが、気になり開けてみる。すると自分が小学生のときに書いた作文だった。「母のような旅館の女将になりたい」との文章。自分はもうこの旅館を見捨てようとしていた。子供の頃の自分を思い出したカナエ。これではいけないのではないかと思いはじめる。
[評]大人になると、誰もが田舎暮らしは嫌で仕方がない。カナエは、都心での一人暮らし。だが田舎の温泉地には幼なじみの公平がいた。公平とカナエ、お互いに良い仲だったのだ。そこを思い出す。このシーンには、母の思いと自分の現在をあらわしていて、つぎの展開に期待するものがあった。
*まとめ
この年(1998年)、スポーツでは2月の長野オリンピック、6月にはFIFAワールドカップ仏大会で日本が初出場している。経済は?というと「金融ビックバンの元年」。金融業界の垣根を取っぱらい、自由競争を取りいれた年である。一方で、エンタメの世界では、国民的歌姫5人が生まれた年でもある。宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、椎名林檎、MISIA、aiko。映画では『アルマゲドン』と『踊る大捜査線 THE Movie』が大ヒット。前者が国内83億円、後者が101億円も稼ぎ出した。合わせて考えれば、両者で10作品から20作品分にあたる興行収入と言える。
そんな中にあってか、この『卓球温泉』、霞んでしまったと思われる。タイトルと、最後のマトメの部分を修正すれば、けっこう良い作品だった。卓球大会そのものに無理なストーリーがある。ここをサラっと流して、このあとの温泉地の未来を見据えた展開が欲しかった。園子とカナエが、力を合わせて取りくんでいく姿だ。これなら観ていた皆が納得できたと考える。