見出し画像

将門を祀る?鬼王神社(新宿区)

 鬼王という印象的な名称の神社は東京の新宿区歌舞伎町にある。正式には稲荷鬼王神社というそうだ。鬼王権現という紀州熊野由来の神と稲荷神の神社を合祀したものだという。ただ、紀州には現在「鬼王権現」を祀る神社はないらしい。
 鬼王とは月夜見命、大物主命、天手力男神の三神というが、これは明治以降のこと。おそらく明治政府が出所不明な(つまり古事記などに出てこない)神を認めず、そうした神社を淫祀と決めつけ排除しようとしたことに対する策として、この三神を祭神としたのだろう。
 まったく、無粋なことをする政府である。

 歌舞伎町というと、ビルの上からゴジラがのぞく東宝ビルや、何かと青少年の問題が起こる「トーヨコ」などがある繁華街が思い浮かぶところだが、この神社がある場所はそうしたにぎやかな歌舞伎町一丁目の通りではなく、職安通り(今でも職安通りというの?)から区役所通りに入ってすぐのところにある。どちらかといえば、新宿というより大久保に近い印象だ。
 辺りにある店も韓国をはじめ国際色豊かで、歩く人ももしかしたら外国人の方が多いのではという印象を抱く。近くに比較的安価なビジネスホテルもあるので、インバウンド客に好まれるのかなと感じた。


 神社のある場所はビルに囲まれているが、意外と緑が多い。恵比寿神を祀る三島神社や、富士塚もある。少々雑然とした印象の境内だ。

開運恵比寿神社(三島神社)
浅間神社(富士塚)
富士塚は社殿の横の狭い場所にある
塚は参道の両側に別れていて登ることはできない
元は一つの山だったらしいが、今は参道を通るだけで富士山の胎内潜りができるとか

 この神社には平将門が祀られているという言い伝えがあるが、神社の祭神には見えない。実は明治になってある書物にそう書かれていたらしい。おそらく地元ではそのように信じられてきたのではないだろうか。
 鬼王とは平将門の幼名で「外都鬼王」とか「鬼王丸」とよばれていたからという。「げづおにおう」とは奇妙な名だ。げづは牛頭ごずのことだろうか。牛頭は人間の体に牛の頭の怪物で、馬頭と共に地獄の獄卒である。また、牛頭天王とは祇園精舎の守護神で、疫神であり疫病を除く神でもある。牛の首を頭上にいただき、牛に乗っている。
 将門をそのような徐疫神と同一視しているということは、怨霊を御霊として祭り上げ、その威力で災厄から護っていただこうということなのかもしれない。

水琴窟
大甕から水が滴り落ち。地中に埋めた甕に水滴が落ちる
手前に突き出た竹筒に耳を近づけると
水滴が落ちる金属的な響きが聞こえてくる
大甕の上に茸が乗っている
なぜか古い映画のポスター
これ、本物だろうか
こんな日の当たる所に貼っていたらたちまち退色してしまうと思うが・・・
勿体ない

 だからなのか、鬼王神社は病気平癒にご利益があるという。撫守なでまもりというお札や、豆腐断ちといって豆腐を口にすること断って病気平癒を祈願する風習があるそうだ。撫守は体の悪いところを撫でるお札で、遠方から授かりに来る人もいるという。


 鬼がらみでこの神社で有名なものは鳥居の傍にある。頭に水鉢を載せた鬼の石像である。

鬼の水鉢
上に乗った鉢に比べ鬼が小さくはないか
よくこれで壊れず支えているんものだと

 この水鉢には怪談めいたエピソードがある。元々水鉢は加賀美という旗本の屋敷にあった。天保の頃その屋敷で夜中になると井戸で水を浴びる音がする。ある夜家の主人はその音のする方を刀で斬りつけた。翌日水鉢の鬼の肩の所に斬られたような傷があった。それから家の者にいろいろ障りがあったので、水鉢は神社に寄進された。
 鬼の右肩の辺りが斬られた跡だという。

 この鬼の水鉢は東京の妖怪スポットや怪談をのせた本などにも度々紹介されていて知る人ぞ知る石像なのだが、手前に柵があり非常に目につきにくくなってしまった。繁華街で夜も人通りが多いので、悪戯されるのを防ぐためと思われるが、おそらく多くの人はこの水鉢に目を止めることはないだろう。

 なんだか、ごちゃっといろいろ詰め込まれたような神社のたたずまいが、歌舞伎町という猥雑な街に似合っているといえばいえるような・・・鬼も嗤っているわ。


いいなと思ったら応援しよう!