ささやななえさんの怖い作品(2)
6月8日にお亡くなりになった漫画家ささやななえ(ななえこ)さんのホラー・ミステリー作品を紹介しています。
河童
ささやさんの作品には、地方のそこだけに伝わる伝承や風習、それら共同体を束ねてきたかつての有力な旧家がよく出てきます。そして、その家を支配する「おっかない(あるいは不気味な)婆さん」も…。(爺さんはない。必ず婆さんなのです)
『河童』に出てくる御成という大きな古い屋敷もそうでした。
正大が八歳まで暮らしていた村には河童伝説があった。村の旧家の御成本家の近くの川で、正大は河童と名乗る着物を着た不思議な子供と出会う。
正大が大学生になったある日、父親から御成家に届け物を持っていってほしいと頼まれる。
久しぶりに訪ねた村は新興住宅が多くなり、風景も変わっていたが、御成家だけは昔の儘のいかめしいたたずまいを保っていた。
御成家をしきっているのは老婆で、ほかに病気で床に伏している当主とその嫁、病弱の娘の四人だった。この家で老婆は絶対の権力者のようにふるまっていた。嫁の女性はただおどおどとした態度である。
居心地の悪さを感じながらも、正大は御成家に泊まることになった。
御成家の当主と娘の立て続けの死。正大の本当の出自。
そして、正大の前に出現した河童の少年の正体とは…。
正大が下した決断とは…。
なんといっても怖いのは個人の生き方の自由を許さない因習にとらわれた考えと、執念というか執着心のいやらしさ。それは人間独特のもので、それに比べたら妖怪河童のなんとかわいらしいことか。
(プチフラワー昭和58年3月号、7月号掲載。単行本『化粧曼荼羅』②後編収録)
たたらの辻に…
道子は祖母の家に入ったことがなかった。一つ下の弟の清美は入れてもらえるのに…。「道子は厄をしょっているから入ってはだめだ」
道子は祖母から嫌われているのだと思っていた。
その、祖母が死んで、道子は葬式で初めて祖母の家に入った。そこで、大好きな清美と血がつながっていないことを偶然知る。清美はもらわれ子だった。
その祖母の家に引っ越すことになった。ただし、母は父の仕事の赴任先に行くという。道子と清美の二人だけで当面暮らすことになってしまった。
祖母の家の周辺にはたたらの辻の地蔵と呼ばれるの祠がある。たたらとは足で踏むふいごのことで、昔は金属を精錬する場所をたたら場といった。祖母の家のあたりも昔たたら場があったらしい。道子の家の近藤も、「金銅」というのが本来の苗字だという。
祖母の家で過ごすようになってから、道子は怖い体験をする。二階の窓の外の、誰も立てないような場所に人影を見たり、天井板が人の形になって道子に向って落ちるような感覚に襲われたり。
なぜ、道子ばかり恐ろしい目に合うのか。そのたびに助けてくれるのは清美だ。彼は祖母から道子を守るように仕込まれていたのだ。しかし、それはなぜか…?
たたら精錬にまつわる伝承や、ひとつだたら、一本だたら、だいだら法師などと呼ばれる一つ目の化け物の伝承を題材にした作品です。
あいかわらず、心霊現象の描き方が気味悪いです。
(プチフラワー昭和62年6月~8月号掲載。単行本『たたらの辻に…』収録)
空ほ石の…
マンモス団地に越してきた菜穂子の一家。引っ越し早々下の階の部屋に救急隊員が呼ばれている。荷物を片付けている中、ふとベランダの隅に四角いコンクリートの塊が置いてあることに気づいた。前の住人が置いていったのか。
引っ越しの時に団地の写真を撮っていた森尾一彦は、偶然転入先の高校で隣の席だった。彼は写真を撮っていたことは内緒にしてくれという。あの団地は変なのだと。
副委員長の武見が、団地で飛び降りが多いと教えてくれた。それと森尾は変わったことを言っては、人を驚かして面白がっているのだから、気にするなとも。
確かに、ぶっきらぼうで変わった人だけれど…。
昼間、家で一人でいる母親の様子がおかしい。ベランダでぼんやりとしていたり、なぜか押入れの戸を開け放しにしていたり。
ある日菜穂子の母親が緊急入院した。団地の階段の踊り場で倒れているところを同じ階の住人に発見されたのだ。
父親は急に出張が入り、菜穂子一人が団地に取り残された。
その夜。菜穂子は耳鳴りのような小さな音で目が覚めた。閉めたはずの押入れが少し開いている。その隙間に二つの光るもの。中に誰かいる?
そういえば母はなぜいつも押入れを開け放しにしていたのだろう。
宇津ノ谷━━『伊勢物語』に出てくる宇津ノ谷。ウツは「空」「虚」とも書き、生命力と霊力を復活させるために籠りをする場所で、魂のこもる場所でもあるそうです。
宇津ノ谷は死霊が籠る現実と霊界の境目なのです。
森尾は巨大団地に囲まれた広場に立つと、いつも宇津ノ谷の話を思い出すというのです。
巨大な空洞の石で作られた、空ほ石の━━
(プチフラワー昭和61年9月~10月号掲載。単行本「たたらの辻に…』収録)