【ゴスレ二次創作】The endless blessings of the small night
「──『その子供らも麗しく、忌むべき傷のないように』」
草木も眠る深夜、ベッドに腰かけるグレイとフローだけ──正確には、フローのお腹の中にいる赤ん坊含めて3人──の寝室に、グレイの小さく、しかし朗々とした声が響く。
「『ほくろ、みつくち、青あざや、不吉な印を背負い来て、生まれながらに世の人の、疎まれ者とならぬよう』」
言い終わって、グレイの手がフローの腹に置かれる。拍手をするように、ふたりの子はポコポコと蹴った。
「『夏の夜の夢』第5幕第1場の、妖精王オベロンの呪文ですね」
グレイと顔を見合せ、フローは笑う。グレイも思わずにっこり笑った。
「おー、よく覚えてたな。さっすが!」
「最近、グレイがよく引用してますから」
と言いながら、フローはグレイの手に自分の手を重ねた。
最近、まだ見ぬ我が子は元気いっぱいで、こうして夜中でもポコポコと蹴る。それでフローは寝不足気味だったのだが、ある時グレイがシェイクスピアの一説を口ずさむと、拍手のような蹴りを送っておとなしくなることがわかった。だからこうして、グレイが静かに台詞を読み上げる。
「3組の夫婦を祝福するおまじないの一説なんですよね?」
お腹の子がポコン、と蹴るのがふたりの手に伝わる。そうなの? と母と一緒になって聞き返しているように感じた。
「へへ、当たりだ」
グレイは片方の手で頬をかきながら笑った。
「おまじない……、サムシング・フォーと同じですね」
フローはうなずき、お腹をさすって語りかける。
「あなたには、何を送りましょうかねえ」
もぞもぞ、と動く気配がして、それきり大人しくなる。何がいいか考えているうちに、お休みモードに入ったらしい。
「……寝るか」
「ええ」
額を合わせて、うなずき合う。
新しい家族の産声が──新しい物語の第一幕の開幕ベルが響くまで、あと2月の、夜のことだった。