手術と病院選び
こんにちは。
がんの告知を受けた病院で、そのまま治療をスタートする方が多いと思います。今回は、そうではない選択肢を提案することで、少しでも後悔を減らすことに繋がれば幸いです(セカンドオピニオンのお話ではありません)。
1.「手術」
がんの治療では、手術できるか否かがひとつの分岐点となります。「手術ができない」とは、正確には「手術自体はできるが、ベストな治療という観点からしないほうが良い」という意味で前向きに理解してください。
さて、告知後の今後の方針で、手術をした方が良いと主治医からお話があったとします。
前提知識として、肺がんの一般的な手術は大きく3つに分類できます。「開胸手術、胸腔鏡手術、ロボット支援手術」です。また、膀胱がんの手術ですと、「開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術」となります。
※気管支鏡や膀胱鏡、TURBT等も検査だけでなく手術の側面もありますが、ここでは触れません。
2.知られていない事実
ところで、意外と知られていないのですが、設備の都合上、初めから開胸手術や開腹手術しか対応していない病院が存在します。
もし、対応していない病院で今後も治療を受ける場合、自動的に開胸(開腹)手術になってしまいます。ご存知のとおり、開胸(開腹)はどうしても傷口が大きくなってしまい、出血量も少なくなく、術後の回復も時間がかかってしまいます。また、傷痕も目立ちます。なるべくなら傷口は小さい方がいいですよね。
そこで、手術だけは「胸腔鏡(腹腔鏡)手術」や「ロボット支援手術」に対応している病院に転院して受ける、という選択肢があります。つまり、手術以外の経過観察を含めた治療については、引き続き告知を受けた病院(転院元)に通院するということです(これを「逆紹介」といいます)。
もちろん、手術後も転院先に通院しても構いませんが、多くの方は転院元がご自宅から近いはずです。がんの治療はどうしても年単位の付き合いになりますので、ご自宅からの距離も重要な観点です。
以上から、今後の方針の中で「手術」を提案された場合には、「どんな手術なのか」「術後を考えてもっと傷口が小さくなる手術はできないか」を主治医に聞いてください。
もし胸腔(腹腔)鏡手術やロボット支援手術に対応していない場合には、対応している病院を紹介してもらえるよう伝えてみてください。最寄りの「がん診療連携拠点病院」や「地域がん診療病院」を紹介してくれると思います。
3.病院選び
主治医からの紹介ではなく、自分で積極的に病院を選びたいという方もいらっしゃるかもしれません。そこで、手術の観点から病院選びについて参考となる情報をお伝えします。
手術は外科になりますが、今も昔もいわゆる「症例数」が重要であることは臨床医なら誰も否定しない事実だと思います(泌尿器科は、伝統的に内科と外科を兼ねる特殊な科です)。
3-1.「症例数」の調べ方
では、どのようにして「症例数」を調べたらいいのか。身内や知人等に医師がいない限り、基本的には書籍かネットで調べることになります。
3-2①.書籍
まず、書籍でしたら色んな出版社から毎年辞書のように分厚い本が出版されているようです。私は読んだことがありませんので、どの出版社のものが良いのか正直わかりません。あえて挙げるとすると、以下の書籍(週刊誌)です。
医師ごと、病院ごとのロボット支援手術等の執刀数ランキングが実名で掲載されており、参考になります。ただ、3年前の出版ですから、情報としては古くなっていますのでご注意ください。
3-2②.ネット
日本のすべての病院は、年度(4月1日から翌年3月31日)ごとに「病院情報の公表」をしています。その中では、各科ごと手術別患者数や在院日数等も列挙されています。
「◯◯病院 病院指標」と検索すると、すぐにヒットするはずです。試しに、国立がん研究センター中央病院で検索すると、7年分の病院指標がヒットします。
使い道としては、たとえばお住まいの地域にいくつかがん専門病院があった場合に、同年度を比較することで症例数の多寡がわかります。地道な作業になりますが、慣れてくるとすぐに目的の症例数にたどり着けるようになりますし、自ら元データを確認できる意味では一番信頼できます。
「症例数」からいくつか候補となる病院が見つかったら、各病院のホームページを検索します。そうすると、症例数だけではない病院ごとの特徴も見えてきます。
思いのほか長文になってしまいましたので、まとめは省略します。
4.次回
病院ごとの特徴について、大きく一歩踏み込んで「術式とアプローチ」の観点から触れてみようと思います。かなりマニアックな領域ですので、興味のある方は少ないかもしれませんね。
【補足説明】
※現時点では、肺がんでの切除術は「胸腔鏡手術」がメインであって、ロボット支援手術を実施している病院はまだ多くはありませんし、『肺癌診療ガイドライン2021年版』でも推奨まではしていません。一方、膀胱がんでの膀胱全摘除術は術後の合併症が少ない「ロボット支援手術」を『膀胱癌診療ガイドライン2019年度版』でも推奨しています。
※胸腔鏡(腹腔鏡)手術やロボット支援手術であっても、状況によっては手術中に開胸(開腹)にシフトすることはあります。また、状況によっては初めから開胸(開腹)手術がベストな場合もあります。
※ロボット支援手術は、ダビンチ(da Vinci)と呼ばれているものです。がん種によっては、まだ保険適用されていないものもあります。