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【現代美術 映画編】アンゼルム"傷ついた世界"の芸術家

《アンゼルム”傷ついた世界”の芸術家》
ヴィム・ヴェンダース監督 (2023)

ある日、突然目にした Fondazione Palazzo Strozziで開催中のアンゼルム・キーファー展覧会。
とてつもないぞ、これは!となり、
ドイツ現代美術の巨匠アンゼルム・キーファーなる人を調べる。
···ヨーゼフ・ボイスに師事。
···映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』(2017)は観た。
映画「アンゼルム」がもうすぐ公開。
これは観るしかない。
タイミング良すぎにぞくぞくして早速観に行く。

先入観を捨てて、
この衝撃的なビジュアルを
ただ楽しんでもらいたい    -ヴィム・ヴェンダース

まさに衝撃的で美しい映画だった。

冒頭から、森の少し開けた場所。
美しい夕暮れ。
秋なのか初冬なのか。
顔のない白いドレスの女性像が一体。
ドレスの裾に絡む落ち葉。
作品「フランスの女王たち」のうちのひとつなのかだろうか。
美しさに息を呑む。
終始、ヴィム・ヴェンダースの世界観でアンゼルム・キーファーを魅せる。

1945年。終戦の特別な年に生れという共通点が、強烈にアンゼルム・キーファーとヴィム・ヴェンダースを結びつけた。
アンゼルムの主題はナチス、戦争、神話・・・。とりわけナチスを取り上げた作品は物議をかもす。
映画の中で、鉛で出来た巨大な本をめくりながら説明する場面。ハイデガーの脳が癌に侵されていく様だという。歴史を風化させまい、事実を歪めさせまい、という決意が伝わってくる。

パウル・ツェランの詩の朗読が印象的。詩人の肉声。
『死のフーガ』だろうか?・・・調べたが、なんか違うような気がする。

それにしても作品の巨大さ。
自転車で移動しなければならないアトリエの巨大さ。
実際、重機が動き、昇降機に乗って絵を描く。
さながら工場のようだ。
それにしても、途方もない大きさのキャンバス(支持体)を前にして、丁寧に冷静に描く姿が印象的だった。あれだけ大きいと物質の質量が迫ってきて、ともすれば、目の前の”自然現象”ともいうべき美しさに心奪われてしまうだろうと想像する。主題を前にして、その魅力に引っ張られ過ぎず、冷静にコントロールしているように映る。この部分はとても貴重な記録映像だと思う。

アンゼルム・キーファー。ヴィム・ヴェンダース。1945年生まれ。
ふたりの人生が詰め込まれたこの作品には、キャストとしてアンゼルム・キーファー本人の他、息子のダニエル・キーファー、ヴェンダース監督の甥、アントン・ヴェンダースが出演。





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