彗星の彼女~近所にイケメンお姉さんがいた話~

彼女は彗星の如く現れた。

当時私は辺鄙な所のつまらない住宅地に住んでいたのだが、私の家の前の坂道を少しおりた先に、少し古めの空き家があった。
ある春休み。そこの前を通りがかったら、車があってすだれがあって、人が暮らしている気配ムンムンになっていた。人が住みだしたんだなあと思っていた次の週、私のクラスに転校生がきた。
転校生は大都市から来た女の子だった。初対面とは思えないほど爽やかに自己紹介をして、軽い冗談までいってのけ、クラスを笑わせた。都会っ子だ!とときめいた。
女子だったけど、すごくカッコよかった。
背が高くてスタイルが良くて、スポーツ万能で、頭がよかった。そしていつだって爽やかで会話にウィットが効いて面白かったのだった。
彼女は授業でも遊びでもいつも周りを取りまとめて楽しいことをやってのけた。年相応に無邪気に盛り上がるみんなを、彼女は微笑みながら見守っていた。彼女は人を無邪気にさせたが、自分は無邪気にならなかった。彼女はいつだって大人びていて、当時絶賛子供業邁進中だった私にとって彼女は憧れの殿上人だった。
どうやら私の近所にある空き家に引っ越したのは彼女らしいとのことだった。私は嬉しかった。小さな町の小さな学校で彼女はあっという間に人気者になったが、近所というよしみで気が付いたら私は特に仲良くなっていた。
携帯も持っていなかった当時、彼女からよく電話で遊びの誘いがきて、私たちはよく放課後一緒に遊んでいた。
大親友になると思っていた。

別れは突然訪れた。
彼女が転校してきてから2回目の春休みが来て新学期が始まったとき、そこに彼女の姿はなかった。クラス表にも、名前はない。みんな彼女のことを何も知らなかった。嫌な予感がする。私は帰り道、急いで彼女の家に向かった。

何度も遊びに行ったその家は、また以前の空き家になっていた。

どこにいっても、二度と彼女の姿を見ることはなかった。
またどこかに転校したとのことだった。
彼女は、わずか2年で私たちに何も告げずにいなくなったのだった。

お別れもなしに去るのは彼女らしくて、彼女は最後までかっこいい人間であり続けたのだ。
でも、寂しかった。
最後くらい子供らしく、友達らしく、別れを惜しんだり寂しがったりしてほしかった。人間をあまり褒めない母が珍しく「寂しいね」といった。
彼女の生い立ちも背景もろくにしらないし、何が彼女をあそこまでかっこよくさせているのかなんて分からない(天性の素質はあるだろうけど)。でも、彼女は無理をしていたんじゃないかって内心当時も今も思ってしまう。なんとなく。

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