見出し画像

「身元保証契約」における自動更新条項の有効性及び改正後民法における規律について


1 はじめに

 「頻繁にある」という類型の相談ではないのですが、忘れた頃にやってくる相談として
 
「身元保証人になっているのですが、離れて暮らしている家族が会社で何かしまして…今、会社から請求を受けているのですがどうしたらいいですか?」

というものがあります。
 
 現在も、企業が一般的な慣行として、入社内定者に対し、家族からの「身元保証書」の差入れを求めることがあるようです。
 
 そのため、子供(あるいは親族)が会社に入社するに当たり、親族が「身元保証を行ったが、数年以上前のことなので詳細を覚えていない…。」ということもよくあります。
 また、このような相談は、家族が入社した際に差し入れたはずの「身元保証契約書の控え」をもっていない事も多々あります。

 しかし、ごく稀に、身元保証契約書の写しをご持参される方もいらっしゃいます。その際、契約書の控えを拝見するのですが、「自動更新」条項というものが入っている契約書がたまにあります。

 仕事をしていると、そもそも身元保証契約に関して、「自動更新条項は無効。」というのが常識だと思っておりました。
 しかし、ちょっと考えてみると、「自動更新条項ってなんで当然、無効なんだろう?」とも思いました。
 そこで、インターネットや関連書籍を当たってみたのですが、どこにも明確な記載は見つけられませんでした。

 実務家が「当たり前」と思っているような「常識」は、そもそも本に書いていないことも多いのです。

 しかし、今後、何かお仕事をすることになった際に、自分の知識として調べておいたほうがよさそう…と思いましたので、少し調べてみました。

2 身元保証とは何か?

 「1 はじめに」で「身元保証」という単語を何の説明をなく使っていましたが、そもそも「身元保証」とはなんなのでしょうか?

 民法の教科書として定評のある、中田先生の債権総論の教科書によれば、身元保証について下記のような記述があります。

身元保証は、古くからの慣行によるもので、身元保証人は広汎で長期に及ぶ責任を負う。すなわち、①被用者の雇用契約上の債務不履行による損害賠償債務の保証のほか、②被用者に免責事由があり本人は損害賠償義務を負わない場合であっても、身元保証人が損害を担保するという損害担保契約を含むこともあり、③さらに広い身元引受もある。大審院判例は、このような身元保証人の責任を軽減する判断をし、その法理は、1993年の身元保証二関スル法律に取り入れられた。

中田裕康「債権総論第4版」2020年、岩波書店、p.612~613

 身元保証人というのは、いわば「入社する時の担保」ということです。
 すなわち、入社した社員が会社に対して、何らかの損害を生じさせた場合に、社員が賠償しなければならない金額について、身元保証人が支払の責任を負うということになります。
 このような「保証人」のことを法学では「人的担保」と言ったりもします。

 「古くからの慣行」と中田先生は書いておられますが、一体どれくらい前からこういった慣行はあるのでしょうか?

 江戸時代には、「人請」という制度があり、丁稚奉公する奉公人の逃亡・債務不履行(契約上の義務を果たさなかった時)を担保するために、奉公人を保証することを生業とする「人宿」や、五人組などに保証をさせるということが一般的に行われていたようです。
 ちなみに、中田先生の本には、西村信雄先生の「身元保証の研究」という本が紹介されており、江戸自体のことや諸外国における人的担保について様々なことが書かれていると推察されます。
 しかし、同書は、有斐閣オンデマンドで「完全受注生産」ということになっておりますので、とにかく値段が高い。
 専門的な研究書なので、致し方ない部分もあるかとは思うのですが、近隣の図書館には蔵書がなく、都市部の図書館に行った時に頑張って読むしかなさそうです。

 現在私が調べた限りでは、少なくとも江戸時代から現代に至るまで、広く身元保証という慣行は存在するということだと思います。
 
 では、なぜ身元保証をする必要があるんでしょうか? 

 これは、江戸時代も現代も、たぶん根本的な理由は変わらないと思います。
 すなわち、新しい人を雇い入れる際に、会社側(江戸時代なら奉公先?)としては

 「いや、よくわからん人が入ってしまって、店が大変なことになってしまったら困るわぁ…。」

という理由で人的担保を要求するのでしょう。
 一応、会社側としては「採用面接」をしているわけですから、ある程度セレクトした人材を入社させているはずなのですが、採用面接だけでその人の人となりの全てを知るのは難しいでしょうし、入社してからどういった働き方をされるのかを推測するのも難しいでしょう。

 ここまでで、会社側が身元保証を要求する理由はある程度納得がいきました。
 しかし、身元保証人を務めている親族からしたら、入社してから例えば20年以上も経ってから、本人の失敗の責任を取らされると言われたら困ってしまいます。
 そもそも、入社する段階では、その方の人となりについては、会社よりも親族の方が詳しいでしょうが、20年以上も経過していて、「会うとしても盆や正月くらい…。」といったケースですと、「遠くの親族より近くの勤務先」の方がその方については詳しそうです。

3 身元保証ニ関スル法律

会社側の言い分「わけわからん人を雇用してしまって事件が発生した時に、損害賠償請求権を担保してほしい!」

親族側の言い分「入社の時の話をいまさらされても困る!」

 上記のような利害対立については、まずは話合いで解決を目指すべきですし、実際にそのような解決例もあるようです。しかし、話合いがまとまらなければ、最終的には裁判所にて裁判官に決着をつけてもらうことになります。
 では、裁判所ではどのように判断されてきたのか?

 実際のところ、当時は、「どのように利害調整をすればよいのか?」、といったことに関して基準となる法律がなかったため、大審院(当時の最高裁判所)もかなり苦労したようで、様々な理屈で会社と親族側の利害対立を調整するよう腐心したようです。

 しかし、いつまでも法律がないと困ってしまいますので、昭和8年(1933年)10月1日に「身元保証ニ関スル法律」(以下、「身元保証法」といいます。)が施行され、身元保証人の責任範囲が法律上限定されるようになったようです。

 正確な法律の条文は、漢字カタカナ交じりではありますが、商法等に比べたら短いですし、読みやすい方なので、原文に当たって頂くとして、ざっくりと条文を説明すると下記のような感じです。

 身元保証法によれば、第1条において、名前の如何を問わず、使用者の受けた損害を賠償する身元保証契約は、成立日から3年間が有効期限であり、商工業の見習いについてのみ、5年間が有効期限となるとされています。
 つまり、どのようなタイトルの契約書だったとしても、「労働者の失敗によって会社側に生じた損害を賠償する。」といった内容の契約書は、原則として、有効期限が3年しかないということです。

 また、第2条1項では、5年以上の契約は5年に短縮され、2項によって身元保証は更新することができるが、その場合も5年を超えることはできないとされています。
 つまり、保証期間を10年間と記載していても、法律の規定によって「5年」が限度になってしまうということですし、更新をしたとしても、更新後の有効期限も5年が上限ということになります。

 さらに第3条では、使用者が身元保証人に通知すべき義務として、1号で、労働者が業務上不適任又は不誠実なことをやっており、身元保証人に責任追及しなければいけないような恐れが生じた場合と、2号で労働者の業務内容や業務地が変更され身元保証人の責任が加重される又は監督が困難になる事情が生じた場合と規定しています。
 つまり、身元保証人が賠償しなければならないような事件が発生「しそう」な状況があったりですとか、身元保証人が十分に労働者を監督できない状況が発生しそうだったりですとか、そのような場合は身元保証人に会社から通知をしてくださいねということになっています。

 第4条では、第3条の通知を受けた身元保証人は、将来に向けて契約を解除することが規定されています。
 つまり、損害が発生しそうな状況が出てきたら、身元保証人としては将来的に保証人から降りることもできるわけです。
 
 第5条では、損害額の算定に当たり、裁判所が、被用者の監督に関する過失の有無、身元保証人が保証するに至った理由、身元保証人が注意をどれだけ払ってきたかということ、労働者の業務内容または状況の変化など一切の事情を斟酌することができると定められています。
 この条文は、大審院が使用してきた、保証人に対して求める賠償額の範囲を制限する際に用いられてきた理屈を条文に落とし込んだものですが、要は、一切合切の事情を考慮して、会社側と保証人側で損害を分配しますよということになります。
 
 さらに、第6条に規定されているように、この法律の条文に反する特約は、保証人に不利な限りにおいて強制的に無効となります。
 民法の場合、「契約自由」が大原則ですが、会社側と(入社させてもらう側の)親族では、立場としては会社側の方が強いことが多いので、弱い立場の人を守るために、不利な条項については法律によって強制的に無効にしてしまいますよということです。

 身元保証法については、条文は上記で紹介した通り、6条しかありません。
 そのため、「自動更新条項」については当然のように記載がありません。   
 例えば、アパート等の賃貸借契約に関しては、借りている人の方が立場が弱いことが多かったので、賃借人を保護するために、借地借家法という法律の26条1項によって、建物賃貸借契約について自動更新となっています。

 上記のように、自動更新を禁ずる条文がない…ということは、自動更新条項を契約書に入れておけば、会社側としては入社して何十年経っても…定年間際になっても…親族の身元保証人に請求ができるということになるのでしょうか?
 しかし、常識的な感覚として、「自動更新条項が入っていたら結局、いつまでも親族の負担大きすぎません??」と思いませんか?

 結論から申し上げると、自動更新条項は無効になります。
 ただ、仮に自動更新条項が無効になるとしても、上記6つの条文のうち、どの条文を根拠にして無効にするのでしょうか?
 あるいは、民法90条という一般的な規定を用いて、公序良俗に反して無効にするのでしょうか?

4 自動更新条項に関する裁判例

 条文の解釈で困った時は、コンメンタール(条文の注釈書)ですが、手持ちの民法に関するコンメンタールを読んでも根拠規定がよくわかりませんでした。
 この場合は、裁判所がどのような判断を示したのかを探した方が早そうです。

 裁判所の出した判断は、裁判所のHPにて検索できるものもありますし、有料ですが、裁判例を集積している専門の検索エンジンもあります。
 今回は、有料の検索エンジンを使用しました。

 検索してみた所、私の検索レベルが低いのかそもそも公刊物が少ないのかは不明ですが、「自動更新条項」について2件の裁判例がヒットしましたので、紹介します。

⑴ 大分地方裁判所昭和47年11月10日(昭和44年(ワ)第496号)

 判決内容から事実関係を整理すると、下記のような事実が認められています。

 原告(会社側)は、被告Aを雇用し、昭和40年5月1日から、原告の福岡支店大分営業所での集金係を命じ、被告B及び被告Cに対しAの身元保証契約を差入れされさせました。
 なお、身元保証契約は3年間の合意だったようであり、3年間の期間満了にあたって保証打切りの意思表示をしないときは、同一条件を以て更新する旨の自動更新条項がありました。
 その後、Aは、昭和40年12月29日頃から昭和44年1月8日頃までの間に、39回にわたり、現金合計757万9300円を集金し、うち10回について610万3543円を横領しました。
 横領したお金のうち、一部は弁済されたため、弁済されなかった部分について、原告が請求したようです。

 これに対し、裁判所がどのように判断をしたかというと、下記のとおりです。

更新の予約は、使用者から期間満了の直前に改めて通知することにより、更新を拒絶するか否かを判断する機会を与えない限り、身元保証人としては、期間の満了を失念する等の理由で保証打切りの意思表示をする機会を失することもあるので、結局、身元保証人に不利益な特約であるというべく、身元保証に関する法律第六条により無効と解すべきである。

 原告は、このような特約でも同法二条第一項所定の最長存続期間五年を超えない期間内では有効であると主張するが、同法第二条第二項、第六条により自動更新が無効となるのは、単に同法第二条第一項所定の存続期間五年を定めた趣旨に反することのみならず、このような特約が前示理由により身元保証人にとつて不利益を与えるからである。そして、この不利益は、更新の効力を最長存続期間である五年内に限り認めた場合でも同様に生ずるのであるから、右原告の主張は採用しがたい。

上記裁判例

 裁判所は、自動更新条項については、身元保証法「6条」によって無効だと結論付けました。 

 そのため、昭和43年5月1日をもって、身元保証契約の効果は切れているため、昭和43年4月30日までの間の部分についてのみ、損害賠償責任を肯定しています。
 なお、被告Cは、昭和43年11月11日をもって保証人を辞退する旨の通知を原告に差し入れたようですが、これは本人尋問の結果、更新を承諾した上で差し入れたものではないと認定され、結果を左右しなかったようです。

 参考裁判例1では、期間満了の前に会社側が通知をして、更新を促せば有効になりそうな気配もしますが、本件の結論としては、身元保証法6条に基づいて無効となっています。

⑵ 札幌高等裁判所昭和52年8月24日判決(昭和51年(ネ)第201号):拓友クラブ事件

 判決内容を整理すると、事実関係は下記のような事実関係です。

 昭和44年8月頃、拓友クラブはAを雇用し、その際、保証人Bとの間で身元保証契約(連帯保証)を締結したようです。
 身元保証契約の期間は満3年、保証人は保証期間満了の3カ月前までに拓友クラブに対し、書面で契約を更新しない旨の申出をしなかったときは、本件契約は期間満了の日から引き続き3年間同一条件で、更新することを許諾するという内容でした。
 なお、Bは更新拒絶通知はしていなかったようです。
 ちなみにAは、昭和47年10月18日に、拓友クラブの営業員として顧客から受取保管していた現金130万6863円を横領してしまいました。
 その後、損害賠償請求権は昭和49年12月20日に、Cに譲渡され、同年23日にBに内容証明郵便で通知されたようです。

 そのため、本件は債権譲渡を受けたCさんと、保証人だったBさんとの間の訴訟になったようです。
 本件の原審(第一審)である札幌地方裁判所昭和51年 6月29日判決は検索エンジンでは読めなかったのですが、高等裁判所の判決文から察するに、保証人の側が全面勝訴したようですので、Cさんが控訴しています。
 
 これに対して裁判所は、下記のように判示しました。大事な部分なのでちょっと長いですが引用します。

よつて、案ずるに、身元保証法は、使用者に対し事実上、経済上の弱者である被用者のため身元保証人となる者が多くの場合、被用者との情誼的関係から、無償で、時として軽卒に、使用者間の言うままの条項に従つて身元保証契約を結び、その結果広汎にして且つ重大な責任を負う羽目に陥る事例が少くないという経験的、社会的事実に鑑み、身元保証人を保護することを目的として立法されたものであつて、このことは商法各本条の規定内容に徴しても明白である。従つて同法の規定上の文言を解釈するには、叙上の同法の立法趣旨に鑑み、出来るだけこれに添うようにしなければならない。ところで同法第一条は、身元保証契約においてその期間を定めなかつた場合のその存続期間を決定したものであり、同法第二条一項は、身元保証契約においてその期間を約定する場合につき、その長期を五年に限定したものであり、いずれも身元保証人保護の目的に出たものであることはいうまでもない。而して同法第二条二項本文は、身元保証契約は之を更新することができる旨を規定しているが、これは、身元保証契約の存続期間が満了する際に、使用者において、その義務の性質上、使用者を引き続き雇用していくについては、なお身元保証契約を存続させる必要があると考えてそれを望み、身元保証人としても、それに異議がないという場合もあり得るので、かかる場合は、当事者の合意によつて身元保証契約を更新できることにしても身元保証人の保護に欠けることはないとの考慮によつたもの解せられ、このことは、同法立法の際の第六四回帝国議会行政執行法中改正法律案外七件委員会における審議の経過(西村信雄身元保証の研究一〇一頁、一〇六頁参照)に照らしても、ゆうにこれを察知することができる。他方、身元保証契約における更新予約の可否について考えるてみるに、身元保証契約の期間満了時に当然に更新の効力が生ずるものとする更新予約の特約の如きは、同法第二条一項の趣旨を無視した脱法的特約であるから、許されないものであるこというまでもないが、本件更新予約の特約のように、期間満了の三ケ月前までに(「期間満了前に」若しくは「期間満了に際し」であつても同様)、身元保証人が更新しない旨の意思表示をしなかつたときは、期間満了と同時に当然に更新の効力が生ずるという趣旨の自動更新特約も、身元保証人にとつて甚だ不利なものである。蓋し、かかる自動更新特約のもとにおいては、身元保証人としては、期間の満了する時期ないしその三ケ月前がいつかを失念して、使用者に対して、適時に更新しない旨の意思表示をする機会を失つてしまう危険があり、また本人に対する影響を考えて更新しない旨の意思表示をするのを躊躇することも考えられないではなく、更にまた、かかる自動更新特約がないとすれば使用者から被用者の勤務状況その他諸般の事情の説明を受けた上で自由な意思で、使用者の更新申込を承諾すべきか否かを決断できるという身元保証人の事実上の利益が失われてしまうからである。従つて、右のような自動更新特約を是認することは身元保証人の保護に欠けることになるものといわざるを得ない。叙上考察したところによれば、同法第二条二項本文にいう更新とは、身元保証契約の期間満了の際になされるその更新のみをいうものと解するのが相当であつて、更新予約はこれに含まれないものというべく、従つて、右本文の反対解釈として身元保証契約において本件更新予約の特約のような約定をすることは、同法上許されないところといわざるを得ない。

 而して本件更新予約の特約が身元保証人である被控訴人にとつて不利益なものであることは叙上の説示によつて明らかであるから、本件更新予約の特約は、身元保証法第六条により無効なものと言わざるを得ず、従つて被控訴人の前主記主張はこれを肯認することができる。なお、この点に関し、控訴人は、身元保証法第二条一項の趣旨に鑑み、本件身元保証契約は、当初の所定存続期間三年満了のときから少くとも期間を二年(右契約締結の当初から通算して五年)として更新されたものというべきである旨主張し、これは一応傾聴に値する見解の如くではあるが、結局のところ、当裁判所としてはこれを採用し得ないものと思料する。

上記裁判例

 非常に長い引用ですので、飽きてしまったかもしれませんが、結論から申し上げると、自動更新条項は6条により無効ということになります。
 
 そのため、身元保証契約自体は、昭和47年8月頃に契約期間満了により終了しており、横領したのが昭和47年10月18日ですから、損害賠償請求権を保証人に対し行使することはできないという結論に至ったようです。
 つまり、保証人に支払の義務はなかったということになります。

 上記2個の裁判例からすると、身元保証法6条が、無効の根拠規定となるようです。

5 改正民法での変更点

 なお、身元保証に関する改正として、身元保証法自体は改正されていないのですが、基本法である民法が、令和2年(2020年)4月1日に改正法施行となりましたので、身元保証に関する契約も影響を受けることになります。

 改正後の民法を見てみると、

第四百六十五条の二 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

 「根」ってなんぞや?と思われるかもしれませんが、これは「根抵当権」や「根保証」という法律用語してよく出てくるもので、「一定の範囲に属する不特定の債務」を担保するために用いられる手法のことを指しています。
 
「根抵当権」がわかりやすいと思うので、簡単に説明します。
 
 例えば、銀行が企業に対して融資をする際、日常的な取引銀行なら、何度もお金を貸して、返してもらってという行為をするかもしれません。
 しかし、1回完済したので、抵当権を抹消して、また融資したので抵当権をつけて…と1回の取引毎に抵当権を付けたり、外したりを繰り返していると、登記費用が無駄に多くかかってしまいます。
 
 そのため、民法では、一定の範囲で複数回発生する貸し借りについて、まとめて1回の抵当権で全部カバーしてしまう手法として「根」抵当権を規定しているのです。
 これは人的担保と言われる「根保証」も同じ仕組みです。
 
 なぜこの条文が身元保証に関わって来るのでしょうか?

 身元保証をするのは、親族が多いという話をしましたが、親族の方は、通常「法人でないもの」ですから、2項において「極度額」を定めない場合は「効力を生じない」とされているのです。
 条文で書かれている「極度額」というのは、「上限額」と言い換えてもいいでしょう。
 つまり、身元保証についても、上限額を定めていない契約がされた場合は、民法の上記規定により無効になってしまうということです。


 ちなみに、極度額に関する定めですが、平成29年6月2日法律第44号の民法附則第21条において、「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。」とされています。

 そのため、2020年4月1日より前、かつ身元保証ニ関する法律の趣旨に反しない契約はまだ有効ということになります。

 しかし、もう2024年ですから、大体の契約は期間を満了して失効しており、2020年4月1日より後に生じた契約については極度額の定めがない限り無効になってしまうことになります。

6 おわりに

 身元保証に関する自動更新条項について、どの法律のどの条文が根拠になるんだろう?と思っていろいろと調べてみました。

 調べている過程で、「古代ローマではどうだったんだろう?」とか「江戸時代より前の身元保証とかあったのかなぁ?」とか新たな疑問がムクムク湧いてきましたが、それはまた別な機会に調べてみようと思います。

 結論として、「自動更新条項」については、身元保証法6条により無効。また、2020年4月1日以降の契約に関し、「極度額」の定めがないものは、民法465条の2第2項によって無効になるという追加もされたということがわかりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?