見出し画像

NHK「クローズアップ現代」でも特集。中年期の危機 ― ミッドライフクライシスとは?

はじめに

 中年期の危機、いわゆる「ミッドライフクライシス(midlife crisis)」は、人生の中間期に差し掛かる人々が経験する心理的な混乱や葛藤を指します。
 
 この現象は、心理学者エリオット・ジャック(Elliott Jaques)が1965年に初めて提唱した概念であり、中年期において自己認識や人生の選択に対する再評価が生じることが一般的です。

 ミッドライフクライシスは、多くの場合40代から50代にかけて経験されることが多いですが、年齢や状況によって異なります。

 本記事では、先行研究を踏まえながら、中年期における危機の特徴、原因、そして具体的な対策について発信します。

ミッドライフクライシスの特徴

 ミッドライフクライシスは、個人の人生に対する根本的な疑問を引き起こし、時には深刻な心理的ストレスや不安を伴います。この現象には以下のような特徴が挙げられます。

1. 自己認識の再評価(「何も成し遂げていないのでは・・?」)

 中年期になると、個人はこれまでの人生の選択や成し遂げたことを振り返ることが増えます。成功や失敗、後悔や達成感に対して敏感になり、これが自己のアイデンティティや人生の意味に対する再評価を引き起こします。

 この再評価は、将来に対する不安や現在の生活に対する不満感を増幅させることがあります。

2. 死の意識(「人生の残り時間はあと・・・?」)

 ジャックの理論では、中年期に人は「死の意識」に直面するとされています。人生の有限性を強く実感することで、これまで無意識に避けていた死の概念が、より明確に意識されるようになります。これが自己探求や「人生のやり直し」への欲求を強める要因となることが少なくありません。

3. 社会的役割の変化(「子育て終わり、ふと気づくと・・?」)

 中年期は家庭や職場においても役割の変化が生じやすい時期です。子供が成長し家を離れる「空の巣症候群(Empty Nest Syndrome)」や、キャリアの停滞感、定年退職に対する不安などが、心理的な危機を引き起こす一因となります。

 また、これまで果たしてきた役割が薄れ、自己の価値が見えにくくなると、人生に対する方向性を見失うことがあります。

先行研究による見解

 心理学者カール・ユング(Carl Jung)は、人間の発達過程において中年期を重要視しました。彼によると、中年期は「個性化(individuation)」のプロセスが始まる時期であり、これは自己の全体性を追求する段階です。

 ユングの理論では、中年期は内的な変容と成長の機会であるとされ、危機ではなく「成長の転機」とも捉えられます。

 また、社会学的な観点からは、エリク・エリクソン(Erik Erikson)の発達段階論が参考になります。エリクソンは中年期を「生産性対停滞(Generativity vs. Stagnation)」という発達課題の時期として位置づけました。

 中年期において、他者や次世代に貢献することができれば生産性を感じますが、そうでなければ停滞や空虚感を抱えることになります。

 これらの先行研究は、中年期の危機が個人にとって内的な葛藤の時期である一方で、適切な対策や視点の転換によって成長や変容の機会ともなり得ることを示しています。

ミッドライフクライシスへの対策

 ミッドライフクライシスは避けられないものではありますが、適切に対処することでその影響を和らげ、人生の新たな段階に進むためのステップとすることができます。以下では、いくつかの具体的な対策を紹介します。

1. 目標の再設定・再定義

 中年期には、これまでの人生で設定した目標がもはや現実的でなくなることがあります。そのため、この時期に「新しい目標を設定し直す」ことが重要です。

 たとえば、キャリアにおいて新たなスキルを習得することや、趣味やボランティア活動を通じて自己実現を図ることが有効です。

 ギターなどの楽器演奏や新しいスポーツなどに取り組むことも有効です。

2. 他者とのつながりを大切にする

 ミッドライフクライシスを乗り越えるためには、他者とのつながりを大切にすることが欠かせません。家族や友人、コミュニティとの関係を維持・強化し、孤立しないようにすることが重要です。

 また、カウンセリングやサポートグループに参加することで、同じような経験をしている人々と交流し、心理的なサポートを得ることができます。

3. メンタルヘルスのケア

 状態によっては、メンタルヘルス全般について見直すことも必要です。自分だけで抱え込まず、必要であればメンタルクリニックを受診するなどしてみましょう。

 受診にはハードルが高いかも知れませんが、そこで相性が合う医師や心理カウンセラーに出会うこともあります。ほんの少しの勇気です。

 自己成長への意欲を持つ

 ミッドライフクライシスは、「自己成長のチャンス」とも捉えられます。ここがとても大事です。新しい趣味や興味を探求し、自分自身を再発見することが重要です。

 これにより、人生の後半に向けて前向きな展望を持つことができます。

結論

 ミッドライフクライシスは、多くの人が経験する人生の転換点であり、内的な葛藤や不安を引き起こすことがあります。

 しかし、適切な対策を講じることで、危機を成長の機会に変えることが可能です。「目標の再設定」、「他者とのつながりの強化」、「メンタルヘルスのケア」、そして「自己成長への意欲」を持つことが、ミッドライフクライシスを乗り越えるための鍵となるでしょう。

 そして、何より「話せる相手」を持つことの重要性もどうか知っておいてください。必ずしもプロである必要はありませんから。
                            おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?