日記#18

昼間に外の演説の煩さに目を覚まされた。
気分はそう悪くは無かったが、ほんのり不快感が手を伸ばしてくる予感がしたので早々に抗うつ剤を飲んだ。
そのおかげで手を伸ばしかけていた不快感はタバコの副流煙と共に換気扇へ飲み込まれていった。

無職なので特にする事は無いから家族が帰って来るまで食っては寝てを繰り返していた。
そうしていつもの様に時間を潰し、ちらりとカーテンを捲り、外を見てみた。
太陽の眩しさと太陽光を反射した雲が私の目を痛めつけた。けれど春の晴れ間は本当に心地が良い。私の気分もとても良かった。
太陽と久しく目を合わせたかったけれど、何日も昼間に外出してないものだから、私の目には耐えられそうにもないので諦めた。
そして、まだ時間は有り余って居たので気分が良いまま、そのまま、また眠りに着いた。

起きた時にはもう外は薄暮で、そろそろ家族も帰って来る時間となった。
まだ完全に開きかけていない眼を擦り、眠気を振り払った。けれど今日は少しだけ家族の帰りは遅く時間が余ってしまった。
なので音楽を聴きながら紙のノートに日記を買いていた。特に書く事と言えば、食べた物や、聴いた音楽の感想、また、見た夢の事で他愛も無い事だ。
お恥ずかしながら私は飽き性で毎日は書けないし、日記用のノートを最後まで書けた試しが無い。ただ、このノートは半分以上書けている。初めて完成させる事が出来そうで私の心はいつもよりワクワクしていた。
学生の頃や社会人をしていた時の方が日記は書けそうなのに無職の今が1番書けているのは、ほんの少し心に余裕があるからだろうか。

そんな事をぼんやりと考えて居たら家族が帰ってきたので、私の唯一できる愚痴聞き屋をし、家族と一緒に飯を食い、その後は散歩をした。
最近のお気に入りのルートを辿る。
桜の木が多い公園に着いた。
今日は八重桜が満開で、更に星や月と共演をし、私の目に焼き付いた。
本当に美しかった。
濃い色の花の数々今でも鮮明に思い出し、私の心にも花を咲かせてくれる。
そして暫く歩いた後、信号の赤で歩みを止めた。ふと下を見るとそこには毟られ、捨てられた雑草の花が落ちていた。
何を感じるも無いが、信号が青になった途端、私は足早にそこを去った。

帰宅後、風呂に入り湯船で上半身だけオフィーリアになって遊んでいたら風呂場の天井に唾を吐かれて我に帰った。
そしてまだ湯に浸かり今日見た八重桜と雑草の花の事を思った。何故か今は、美しかった八重桜よりもぺしゃんこになりそうだった雑草の花の方が脳に焼き付いていた。
あの落ちていた花は何を思うだろう。
誰も拾いもせず、ただ毟られ捨てられていた、けれど白い花を壮麗に咲かせていた花は何を感じていたのだろう。
今は後悔が残るばかりだ。
せめて拾い上げ、誰にも踏まれない場所に置いておくべきだったろうか。
いや、きっとその花は何も望んでなんかいないか。その花からすれば良いお節介だったろう。
そう考えるしか私にはできなかった。


また明日あの花を見に行こうか。まだ落ちて其所に居たとしても、もうきっとぺしゃんこだろうけれど、私は、私だけはあの雑草の美しさを知っているから。
知った気に、なっているから。
例えそれが良いお節介だったとしても、私は自分勝手ですので、きっと手を伸ばすのです。


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