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医学生、密林を探る | 2人で飲んだ川の水

私は医学生でありながら世界を旅するバックパッカーだ。そして、このカバー写真を撮影したのはスリランカのシンハラジャ森林保護区という世界自然遺産にも登録されているジャングルである。

この日は朝6時からガイドがホテルまで迎えにきてくれた。普段は寝てる時間だったため、目を擦りながら車に乗車する。スリランカはインドと近い場所にあり、ジャングルを普段相手にするような現地ガイドはさぞ訛りが激しいんだろうとビビっていたため、乗ってすぐの軽い本人確認の会話をした後は沈黙の時間が続いた。沈黙の気まずさと英語力で会話が成立しないかもしれない恐怖の天秤に踊らされていると、運転手の方から声をかけてくれた。

「どこの国の出身だい?」

どこの国でも聞くこのフレーズには流石の私もリスニング力が捗り、日本出身であることを伝えることができた。それを聞くと彼は急に笑顔になり場の雰囲気が一気に和らいだ。ここにきて数日経つがスリランカは親日の国らしい。どこに行っても日本出身というと笑顔が返ってくる。訛りもそこまでなく、場も和らいだのもあってそこからは会話が弾んだ。

道中はとにかくカオスだった。道自体はそれなりに舗装されていたものの、まず驚いたのが野良犬の数だ。人よりも犬の方が多い。勿論、ただ犬が多いからではなくそもそも人が少ないからなのだが。野良犬が道路で寝ていてそれをひたすら車側が避けていく、道のど真ん中で糞を絞り出している犬もいてどうせ轢かれないだろうという犬側の余裕さえ感じ取れた。長い道のりを進んでいると、だんだんジャングルに近づいている雰囲気を感じた。野良犬が野良マングースになり、最後は野良孔雀になった。

道端に寝転ぶ野良犬

そして無事ジャングル前の拠点に着き、朝ごはんを出してもらうことに。スリランカカレーにミルクライス、薄めの硬いパン(ロティ?)、バナナなど豪華な朝ごはんだった。非常に豪華なのだがここはほとんどジャングルの中だ。旅の経験がそれなりにある私は本能的にある疑問が湧いた。

このミルクライスは食べても平気なやつなのか?そもそもこのミルクはいつ絞った何のミルクだ?

市販のやつでは当然ない。そこら辺にいた牛や山羊からとったものだろうか。現地の食文化に疎い私にとってこのミルクは恐怖のイデアとも呼べる存在で、さっきいた野良犬のだろうかなど良からぬことを考えていた。しかし、前を向くと、現地の人たちがさあ食べてごらんとこれ以上ない澄んだ笑顔でこちらを見ている。行くしかないと決意を決めて右手で掴んだものを口に放り込んだ。
しかし、実際食べてみると、かなり美味しい。ミルクライスの甘さとスリランカカレーの辛さがうまくマッチしていて一口食べたら手が止まらなかった。ちなみにスリランカではインド同様右手でご飯を食べる風習があり、当然私も現地では右手で食事を摂った。

朝食  写真ではわかりづらいがミルクでほろほろ崩れる。
小鉢からカレーをよそう時はなぜかスプーンを使う。


満腹になりようやくジャングル探索が始まった。ジャングルを二人で歩き、ひたすら一つ一つ枝や葉っぱを確認していく。小指くらいありそうなオオヤスデや平たくて白いカエルなど日本では見られないような生物だらけで大興奮だった。


しかし勿論楽しいだけでは済まないのがジャングルである。ジャングルで少し休憩しているとき、ガイドが私の足元を指さして何か言い出した。何だろうと見てみるとヒルが数匹足を這っていた。ヒル対策で肌を露出しない服装をきていたため刺されることはなかったが、いつ上の方まで這いずり上がってくるか分からなかったため、指で剥がすことにした。実際に指で剥がしてみると今度は指を這いずり回っていつ刺されるか分からない。そこで指でヒルをちぎって動きを封じ込めてからデコピンで吹っ飛ばした。たくましい人がジャングルに行くのではない。ジャングルが人をたくましくしてくれるのだ。

しかしどれだけたくましくなったとしても熱帯雨林は非常に過酷だ。持って行った水はみるみる無くなり空になってしまった。水がなくなったことを伝えると、

「川の水を飲むといいよ!」

と彼自身も手で川の水を汲んで飲んでいた。絶望した。が、とりあえずペットボトルに水を汲んで観察してみる。謎の粒子が舞い上がっていたものの透明度も高く匂いもない。どうせミルクライスで胃腸は死んでいる。覚悟を決めて飲んでみると普段飲んでいるミネラルウォーターと一緒だった。湿気と暑さのある一日だったため、それ以降は川辺を見つける度にガイドと二人でがぶ飲みした。

川にいたエビを掬い上げるガイド


今回のジャングルの目的はスリランカの固有種を観察することである。多くの固有種を見つけることはできたものの、一番のメインである固有種をなかなか見つけることができなかった。この日は快晴だったが、連日雨が続いていたことが影響してあまり生き物がいないという。もう4時間近くジャングルを探索していて終わりの時間を差し迫っている。帰り道も入念に探していたが半ば諦めかけていた。
そんな中、ジャングルの入り組んだところからガイドが自分を呼ぶ声がした。ついに見つけることができた。今回の1番見たかったターゲットであるコブハナトカゲである。朝食を摂ったところのかなり近くにいて、本当に終わりがけでの発見だったため奇跡を感じた。無事撮影もでき最高な思い出となった。

コブハナトカゲと記念撮影


昼もスリランカカレーを提供してもらった。食事中の私の頬は喜びで緩んでおり、もしスプーンで食べていたら口からこぼれ落ちていたはずだ。手で食べる文化は笑顔の多いこの国だからこそなのかもしれない。

こうしてジャングル体験は幕を閉じた。

ちなみに次の日も、その次の日もお腹を壊すことはなかった。新鮮なミルクと新鮮な水を提供してくださったジャングルの皆様、疑ってすみませんでした。僕は今日も健康です。

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