管理職の部下を動かすコミュの本
はじめに
本書は、実践で使える管理職に必要な部下を動かすためのコミュニケーション(=コミュ)のコツを紹介する本です。
管理職研修講師としてのキャリア24年のまとめです。
紹介するコツは、「コミュニケーションの決め手の9割は感情コミュニケーションの影響力」といった観点からのものです。
誤解のないように、管理職にとって部下への働きかけには論理のコミュはとても重要です。
ただ、その働きかけを受け入れてもらうための影響力は感情コミュが9割ということです。
ちなみに、私はこれまで管理職研修を数社で5年以上、長いところで10年担当しました。
ここでアドバイスした9割は感情のコミュに関するものでした。
つまり、論理に関してはできているということです。
内容は、文章とイラストで紹介しています。
本書の構成は、各項目完結型にしていますので必要な項目から、あるいは必要な項目だけをお読みいただけます。
会社を団体や組織と、お客様を住民やステークホルダーといった言葉に変えていただければ、どの業種や職業の方にもお役立ていただけます。
なお、例としている言葉づかいと非言語による表現は、実際には相手や内容、状況に合わせて変えていただく必要があります。
本書が、あなたのビジネス・パフォーマンスのサポーターとしてお役に立てれば幸いです。
田中義樹
第1章 指導・支援のキーワード
1 言葉は気持ちをつくる
部下を伸ばす指導・支援においては、相手に前向きな言動につながる言葉を返してもらうことが大事です。
言葉は、自分の気持ちや考えを伝える手段であるだけではなく、言葉を発した人の気持ちを、よりその言葉が意味する気持ちにするものです。
つまり、相手に前向きな言葉を発してもらうと、相手の言動がより前向きになるということです。
会話のきっかけづくりや会話の展開を切り替えるときには、「○○さん、ちょっといい?」といった問いかけによって、相手から「いいですよ」という了承の言葉をもらうようにします。
また、相手の主体的な言動につなげるためには、
「○○については、何をすればよいと思う?」
「○○について、より良いものにするにはどういう行為・行動をとっていく?」
といった問いかけによって、実践すべき行為・行動を相手に話してもらいます。
詳しくは後述します。
2 話を聴いてくれる人はいい人
話を聴くことは、「あなたに好意を持ち、興味を持ち、関心を持っているよ」といった意思表示です。
好意には好意が返ります。
また、聴くことで相手の気持ちや考えを汲み取ることができます。
つまり、的確な働きかけができるようになります。
そして、前述の項目1に関連して、思いや考えを表現してもらうことで主体的な言動につなげることができます。
メンバーの主体的言動度を高めるためには、相手の話をきちんと聴くことが大事なのです。
そこで、話を聴く際ですが、次のことを心がけるようにします。
①うなずきながら聴く
②途中でさえぎらない
③適時適切な相づちを入れる
④話は受けてから切り替える
まず、「①うなずきながら聴く」ですが、うなずきによって「あなたの話を、好意を持ち、興味を持ち、関心を持って聴いているよ」という気持ちを伝えながら聴くようにするということです。
加えて、うなずく際には気持ちを目線で伝えるようにします。
次に、「②途中でさえぎらない」ですが、こちらは相手の話を早合点によって中断させたり、途中でそらしたり、「でも、…」「しかし、…」で返すといったことをしないようにするということです。
相手からすると、「私の話をちゃんと聴いてくださいよ」といった不快な気持ちになるものです。
しかも、これによって肝心なことを聞き逃す可能性もあります。
そして、「③適時適切な相づちを入れる」ですが、相手の話の肝心なことをきちんと聴くために「相手が気分よく話せるよう適時に適切な相づちを入れるようにしましょう」ということです。
相手としては、気持ちが伝わる相づちや理解を深める相づち、発展させる相づちが入ると気分よく話せるものです。
「あなたの話を前向きに聴いているよ」
という気持ちを伝えるためには、
「○○については、そうだよね」
「○○になって、それはよかったね」
といった共感や配慮の気持ちを伝える相づちや、
「ほぉー」「いやぁー、すごいね」
といった感嘆の気持ちを伝える相づちを入れます。
また、相手の話への理解を深めるためには、
「そして?」「それから?」といった話を前に進める相づちや、
「○○をしたんだね」「○○とは、○○ということ?」
といったオウム返し的な相づち、自分の言葉にして返す相づち、
「○○については、どうだったの?」
といった質問を入れます。
そして、相手の話を発展させるためには、「○○から見ると、どう?」といった新たな気づきを生む質問を入れるようにします。
質問については、後ほど詳しく紹介します。
ちなみに、相手が最も気持ちよく話しているときの相づちは、感嘆の相づちだと言えます。
さらに、「④話は受けてから切り替える」ですが、こちらは事情によって最後まで聴けない場合や相手の話の途中で質問や説明を入れる必要がある場合には、相手が言い切るまで聴いて、そこから展開を切り替えるようにするということです。
この話の切り替えは、前述②の話を途中でさえぎらないということともに、話を聴く際に特に配慮すべきことです。
そこで、相手の話を切り替える際ですが、それにはクッション言葉を入れて、相手から了承の言葉をもらうようにします。
たとえば、
相手が話している途中に、
「ごめん。今から会議なんで、ここまでにして」
と返すのと、
「なるほど、それは○○だよね。ごめんなさい。ちょっといい? 今から会議なもので、続きは会議が終わってから聞かせてくれる。ごめんね」
といった感じで返すのとでは、
どうでしょう?
後者だと、相手は快く受け入れてくれるはずです。
3 イラっときたときこそソフトに!
メンバーを伸ばす指導・支援において、最も難しいのは自身の感情をコントロールすることだと言えます。
イラつきが生まれかけたときには、グッと我慢をして、自身が求めていたレベルや必要な方法などに関しての「なぜ?」を考えてもらうか、教えるようにします。
ここは忍耐です。
「ダメじゃない。もう一回やり直し」
「こんなの常識でしょ。ちゃんとやってきて」
「言ったことぐらいはちゃんとやってくれない」
「○○のレベルぐらいまではやってほしいな」
「もういいよ。私がやるから」
といったマイナス感情をストレートに吐き出してしまうと、この場がお互いのマイナス感情の醸成の場になりかねません。
誤解のないように、これは何も叱ることを否定しているわけではありません。
前述のマイナス感情の吐き出しは「怒る」であって、「叱る」ではありません。
「叱る」はメンバーを伸ばすための働きかけであり、改善点を指摘したうえで成長への気づきを生むことです。
ちなみに、私としてはメンバーを叱って伸ばせる管理者は素晴らしい管理者だと思います。
叱りが効果を発揮するのは、信頼関係ができているからこそです。
話を戻しますが、自分が求めていることを教えるか考えさせるかは、相手の主体的言動につなげるという観点から、相手に合わせて判断するようにします。
4 人はプラス展開を快く受け入れる
メンバーへの指導・支援においては、相手の気持ちをマイナスにしないことと、成長への働きかけというスタンスからのプラス展開を心がけるようにします。
前項3の「イラっときたときこそソフトに!」にも関連するのですが、人はプラス展開を快く受け入れるものです。
たとえば、イラつきが生まれるようなやり取りにおいて、
「それだったら、○○ということだから○○をするといいよ」
と教えるとか、
「それだったら、○○を参考にして『なぜ?』を整理して提出してくれる。今後の○○さんの成長につなげようよ」
というように対応すると、相手のモチベーションも上がり、前向きな取り組みへとつながるはずです。
また、その他の場合においても、メンバーとのやり取りにおいては、相手にマイナス感情からの「何で、ですか?」を言わせないようにします。
たとえば、メンバーからの質問に答えられない場合や受け入れられない提案に対して、「知らない」「それは無理だね」といった返しをすると、相手からは不快感を伴った「何で、ですか?」が返ってきがちです。
これを、
「ごめん。○○については○○ということで、今は答えられない」
「それについては○○ということで、できない」
といった返しにすると、どうでしょう?
相手は不快感を覚えることなく、気持ちを前に進めることができるでしょう。
そして、可能であれば、
「もしよかったら、○日くれない。それだったら答えられるんだけど」
「それだったら、○○の視点から見直してみるとよいのでは」
といったプラス展開の対応にすれば、より「相手のため」を生むことになります。
さらに、項目2の「話を聴いてくれる人はいい人」のところでも述べていますが、プラス展開という点では、「でも」「しかし」「そうは言っても」といった言葉を、「それだったら」「それについては」に換えるようにすることも大事です。
加えて、「遅い」は「慎重」に、「不平」は「意見」に、といったプラスの言葉に換えることもしかりです。
5 感謝には感謝が返る
「ありがとう」と言われて、不愉快になる人はまずいないでしょう。
「ありがとう」あるいは「ありがとうございます」という言葉は、お互いの気分をよくしてくれる言葉です。
「またその人のために何かをしてあげよう」という気持ちを生む言葉です。
メンバーへの感謝の気持ちは、素直に伝えるようにします。
「ありがとう。手伝ってくれると助かるよ」
「○○さん、ありがとう。あなたのお陰で納期に間に合ったよ」
「昨日はありがとうね。○○さんの提案のお陰で、例の企画が採用されたよ」
といった感謝の言葉によって、メンバーのモチベーションは上がり、主体的な言動へとつながるのです。
たとえ、メンバーとのやり取りがマイナスの展開になったとしても、ここはプラス思考で、より良いものにする時間をもらったことへの「ありがとう」を言うようにします。
たとえば、
「○○については受け入れられないですね。おかしいですよ」
に対して、
「何を言ってるんだよ。やってもらわないと困る。もう今日は時間がないから、いい。またにしよう」
と返したのでは、相手のマイナス感情を増幅させかねません。
これを、
「私としては○○なので、あなたはわかってくれると思ってる。今日は時間も時間だからまた明日話そう。大切な時間をありがとうね。お疲れさま」
と返すと、どうでしょう?
相手の気持ちが前向きになることが読み取れるでしょう。
このことは、相手が「やってられないよ」といった捨て台詞を言って、その場を去ろうとする場面においても重要です。
背後から「○○さん、大切な時間をありがとう」といった言葉を投げかけると、相手は時間の経過とともに冷静になり、「ちょっと悪かったかな。明日は前向きに話そう」といった気持ちになるものです。
何事もプラスでまとめることが大事です。
このように、これまで述べた心がけをまとめると、「プラスではじめ、プラスの展開をし、プラスでまとめる」ということが重要なのです。
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