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【詩】夜の散歩

向かい合う相手がいない

れ落ちた柘榴ざくろの実に蟻が群がる
暗闇の中に黒が蠢く
公園のフェンスを指の腹で
数える しだいに
強く打ち付け 時を遡る
出来上がったばかりのデスマスクが微笑む
埃だらけの標本箱の隅には
並べられた標本物の他に
無意味な言葉を連ねる辞書がみつかり
真紅の花弁を溶かしながら
閉じたまぶたの震えさえ忘れる

不誠実だったあなたの涙を疑う
それほどの不義理を棘のように抱えて
胡桃くるみの中の永遠を過去に加えようとする
行ったり来たり足枷あしかせをはめられた足音がする

夜の中に夜が照り
夜の中に夜が沈む
出来損ないの夜の隅で
暗闇の散歩者が咳をする

ブラウン管の受像機が
辞書の言葉を引きずり出す
その光の白さを愛撫する
仮想空間はいつから歴史になるのか
もうすでに歴史になったのか

向かい合う相手がいない
デスマスクが微笑む
散歩とはそういうもの

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