あまじょっぱい卵焼き 【小説】
橙色の夕日が部屋の隅まで染め上げる。最近の気候にしては珍しく空気がぴりりと冷たくて、窓を閉じた。キッチンは陽の光でまるで柔らかな布に包まれたような温もりで満たされている。小さな手書きのレシピを広げる。かすかに染み付いた実家の香りが鼻をかすめる。深い海のように静かな青いインクで綴られた文字が、柔らかに微笑みかけてくる。とても大ざっぱな説明で、でもとっても美味しく出来上がる。この味の記録を見ながら、母が私のために何度も料理してくれる、あまじょっぱい卵焼きを私も作ってみようと思う。