居飛車ミレニアム囲い対ノーマル四間飛車の個人的研究① 基本的な狙い~△5四銀△6五桂
はじめに
ミレニアム囲い対ノーマル四間飛車の攻防について,個人的に研究している内容をまとめます。
ミレニアムはノーマル振り飛車対策として方針が明快で勝ちやすい優秀な作戦ですが,駒組や狙い,相手にする際のポイントについて手軽に学べるコンテンツがないことが気になったので,自分の現状の理解をまとめて共有しておくことにしました。
正確性については保証しかねるため,誤りなどありましたらご指摘いただけるとありがたいです。
先手居飛車対後手ノーマル四間飛車のみを扱います。
当方の棋力はアマ初段です。検証にはやねうら王/水匠5を使用しています。
特に参考にしている棋書はありません。
lishogi study に同様の研究をまとめてあります。こちらも併せてご覧いただけるとありがたいです。 https://lishogi.org/study/vywbAjby/rcgOEIMU
ミレニアム囲いについて
ミレニアム囲いとは対振り対抗形で用いられる以下のような囲いです。
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陣形の重要な特徴として以下が挙げられます:
居飛車穴熊同様,金駒が密集した持久戦志向の囲い
6六角・7七桂の形 → 角道を閉じない,左桂を活用する
8九玉の配置 → 振り飛車の角筋を避けている
ノーマル振り飛車に対する持久戦志向の作戦といえば居飛車穴熊が代表的です。対振り持久戦はまともな捌き合いになれば固さの差で勝ちやすいですが,藤井システムをはじめとする振り飛車側の積極策で組みあがる前に潰される懸念がつきまといます。
そんな中で,振り飛車からの積極的な仕掛けを封じながら穴熊同様の堅陣を築き,さらに大駒を好きなタイミングで捌く権利を握ることができるのがミレニアム囲いです。それらの利点を活かせる局面に持っていければ,対振り持久戦の理想的な勝ち方(軽く捌いて固さで勝つ)を自然に実現することができます。
反対に振り飛車側は手なりで組み合っていると簡単に作戦負けするので,そういった思惑を何とか外せるよう明確な方針をもって動いていく必要があります。
基本的なねらい
ミレニアム囲いの狙いと強みを理解するために,居飛車側のひとつの(都合のいい)成功例を示します。
初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲6八玉△9四歩▲9六歩△4二飛▲5八金右△6二玉▲5六歩△7二銀▲7八玉△7一玉▲2五歩△3三角▲3六歩(途中図1)△5二金右▲6六角△8二玉▲7七桂(基本図)
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舟囲いからの▲2五歩~▲3六歩で一旦急戦の気配を見せてから,▲6六角~▲7七桂としてミレニアムに向かいます。
振り飛車側は△5一玉と戻しての藤井システムや陽動居飛車も視野に入れた駒組でしたが,急戦をちらつかせられると△6二玉の形で待機するのは難しいため△7一玉~△8二玉と入城せざるを得ません。このように急戦との両天秤をギリギリまで維持できる駒組のおかげで,穴熊や左美濃を狙い打つ積極的な作戦を抑制することができます。
基本図以下△4三銀▲8八銀△6四歩▲6八金寄△7四歩▲7九金△6三金▲8九玉△7三桂▲7八金寄(図1)
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居飛車側は三枚ミレニアム,振り飛車側は高美濃に構えます。
▲6六角のせいで振り飛車側は△4五歩と突けず,また8四に角が利いているので銀冠に組み換えることもできません。妥当な手は△5四銀か△5四歩ですが,ここでは△5四銀とします。
図1以下△5四銀▲3七桂(図2)
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△5四銀には▲3七桂として次の△4五銀を防ぎます。角頭を狙いに飛び出した銀ですが,4五・5五・6五の地点がすべてふさがっていて早くも立ち往生の気配です。
たとえばここから△6五歩などとしてしまうと完全に居飛車側のペースになります。
図2以下△6五歩▲5七角△4五歩▲5九銀(図3)
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角をどかしたことで△4五歩を指すことはできましたが,銀の進路は完全に閉ざされており,ここからの有効な攻め筋が見いだせない状況です。いつでも▲2四歩があるため,△4三銀~△4四銀などと銀を繰り換えることもできません。
一方の居飛車側は▲5九銀~▲6八銀として四枚ミレニアムを完成させたのち,▲8六歩~▲8七銀として桂頭をカバーしたり,▲9八歩~▲9九玉として穴熊に組み換えたりといくらでも囲いを発展させる余地があります。
こうなると振り飛車側は無為な手待ちをするくらいしか手段がなく厳しい状況です。
図3以下△8四歩▲6八銀△8三銀▲2四歩(図4)
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△4五歩によって居飛車の角が動けなくなったのでとりあえず△8四歩から銀冠へと組み換えに行きますが,△8三銀の瞬間を狙って▲2四歩と仕掛けられます。
図4以下△同歩▲同角△2二飛▲3三角成△2八飛成▲4四馬△7二金▲5五歩△4一飛(銀取りを防ぐにはこれしかない)▲1一馬△4三銀▲4五桂(結果図1)
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5四の銀が体よく狙われた形で,自陣飛車を打たせた居飛車の優勢です。
このようにミレニアム側は▲5七角の配置からいつでも一番条件のいいタイミングで仕掛けに転じることができるため,振り飛車は無策で挑むと何もできないまま相手の囲いが盤石になっていくのを眺めることしかできなくなりがちです。
ミレニアム囲いの強みについて改めてまとめます。
急戦調の出だしにより△6二玉を牽制できる
▲6六角型により振り飛車の駒組を制約できる
▲5七角でいつでも仕掛けを準備できる
隙なく囲いを発展させることができ,放っておくとどんどん堅くなる
振り飛車側の方針
前述のとおり,急戦を匂わせながら駒組する都合上,ミレニアムに対して序盤の駒組を歪めるタイプの対策(たとえば藤井システムや陽動居飛車)は難しいものがあります。
振り飛車側の有力な方針としては以下があります:
△5四銀から△6五桂の仕掛け
中飛車への振り直し
△5四歩+△6四銀(△6四金)から中央・桂頭を狙う
振り飛車穴熊
△3二金型などに構えて早期に角交換を迫る
ミレニアム囲いのわかりやすい弱点として桂頭の7六や▲5七角としたときの角頭になる5六の地点があり,1-3 はこれらの弱点を狙いにいくという考え方に基づいています。
4 は堅陣のミレニアムに対してさらに深く囲って対抗する方針です。ただし,ミレニアム側だけ左桂が活用できる上に6六または5七に配置された角が端をにらんでいるため,中終盤で居飛車側が端攻めの権利を握ることになる点は注意が必要です。
5 は▲6六角の時点で角交換を強要してそもそもミレニアムにできない展開にする作戦です。有利不利はともかく少なくともミレニアムは目指せなくなるので,居飛車側は別途対策を立てておく必要があります。
△5四銀~△6五桂の仕掛け
△6三金が入っている場合
図2を再掲します。
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先ほどの成功例ではここで△6五歩としていましたが,角を動かすだけのために銀や桂の進路をふさいでしまう△6五歩は筋のいい手とは言えません。
そこで代わりに△6五桂と出る手が考えられます。
図2から△6五桂(図5)
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▲同桂は△同銀でまずいですし,放置して▲5九銀などとすれば△7七桂不成で,▲同角なら△6五銀,▲同銀なら△8四桂と攻められます。なのでここは▲8五桂とかわします。
図5から▲8五桂(図6)
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図6から,何が何でも玉頭銀を決めるなら△7七桂不成▲同銀△6五銀ですが,▲4五桂△同歩▲3三角成△同桂▲2四歩(参考図1)で振り飛車失敗です。5四の銀が動いた瞬間に居飛車には▲4五桂から捌く強硬手段があるため,桂損してまで踏み込むのは無謀です。
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したがってここは桂馬の高跳びを咎めるべく△4一飛~△5一角~△8四歩を目指します。しかし角が動くと居飛車からの反撃を食らいます。
図6以下△4一飛▲4六歩△5一角▲2四歩△同歩▲4五歩△8四歩▲4四歩△8五歩▲5五歩(結果図2)
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予定通り桂馬を拾えたものの,▲5五歩から銀の逃げ場がありません。銀を生かすには△7七桂成▲同角△6五銀と桂を捨てるしかなく,▲4三歩成△同飛▲5四歩△同歩▲1一角成で居飛車優勢です。
結果図2をみると,6三の金がなければ▲5五歩に対して△6三銀引と逃げられるようになり,その場合は桂得の振り飛車が優勢となることがわかります。そもそも△5四銀型にするのであれば,△6三金を指さずにいつでもダイアモンド美濃にできる状態を保つほうが筋がよさそうです。
ということで,次に△6三金が入っていない場合を見ていきます(こちらが本筋です)。
△6三金が入っていない場合①
基本図以下△4三銀▲8八銀△6四歩▲6八金寄△7四歩▲7九金△7三桂▲8九玉△5四銀▲3七桂△6五桂(図7)
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△6三金が入っていない分,居飛車の囲いも一手遅れています。
先述の通り,6三の地点が空いている状況では▲8五桂からの変化は振り飛車側に分があります。そのため,居飛車には△7七桂不成~△6五銀(または△8四桂)の攻めを食らった上で角を捌くプランが求められています。△7七桂不成の局面で▲同銀とすると△6五銀から角が追われる格好になってしまうため,△7七桂不成には銀の当たりを避けて▲同角と応じたいところです。その後7七の角を6八に引けるように,先んじて▲7八金と締めて6八の地点を空けておきます(のちの△7六桂が両取りにならないようにする意味もあり)。
図7以下▲7八金△7七桂不成▲同角△6五銀▲2四歩(図8)
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振り飛車は予定通り△7七桂不成▲同角△6五銀から玉頭銀を目指しますが,このタイミングで居飛車は▲2四歩と仕掛けます。ここで振り飛車には(A)同角と(B)同歩の選択肢があります。
(A) 同角:
図8以下△同角▲6八角△同角成▲同金上(結果図3-A)
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△同角には▲6八角と合わせます。△同角成に対して,▲6八金寄が形に思えますが,次に△7六銀▲2三飛成△3二角(参考図2)とされて居飛車大変です。△7六銀は次に角打ちや△7五桂を絡めて8七・6七を攻める筋を見据えているので,玉頭を攻められそうでなおかつすぐに飛車を下ろされる心配がない場合には▲6八金上として上部を補強する手が好手になり得ます。
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戻って結果図3-Aは次の▲2三飛成の防ぎ方が難しいです。△3一桂には▲2五桂上~▲3三桂打,△3二角には▲2二角,△2二飛には▲5五角,△2四角には▲5七角△同角▲同銀で手損させる進行が一例で,いずれの変化も振り飛車側は居飛車に手番を握られ続ける展開になります。加えて△7六銀からの攻めが7八の金によってブロックされており,玉頭銀狙いの△6五銀も空振りした形です。総じて居飛車側の指しやすい展開でしょう。
(B) 同歩:
戻って図8から△同歩をみます。
図8以下△同歩▲3五歩△同歩▲4五桂△同歩▲3三角成△同桂▲2四飛(図9)
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△同歩には▲3五歩~▲4五桂と立て続けに捨てて▲3三角成△同桂▲2四飛と飛車先を突破します。▲2四飛は龍作りではなく▲6四飛から▲6一飛成~▲5五角や▲3四歩を狙っています。▲6四飛が銀取りの先手になってはまずいので,このタイミングで振り飛車は△7六銀と逃がすしかありません。なおも▲6四飛と指して居飛車が好調です。
図9以下△7六銀▲6四飛△7三角▲6一飛成△同銀▲7七歩(結果図3-B)
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一旦玉頭銀を弾いてからの▲8五桂・▲6五桂や▲3四歩が苦しく,飛金交換ではあるものの振り飛車側の陣形が隙だらけで居飛車優勢です。
以上から,図8から△2四同角の変化は角交換の後に居飛車が主導権を握る展開になり,△2四同歩の変化も6四の地点の隙を的確に咎められ振り飛車側が苦戦します。
囲いの上部を戦場にする方針でいくと単純に捌き合うよりは振り飛車もワンチャンを拾いやすいですが,同時に美濃囲いに対する強烈な反動を覚悟する必要があり,実戦的にも玉形の圧倒的な安定感でミレニアム側が勝ちやすいように思います。
△6三金が入っていない場合②
△6五桂に対するもう一つの対処として,▲8六歩~▲8七銀で7六の地点を受ける方法があります。
基本図以下△4三銀▲8八銀△6四歩▲6八金寄△7四歩▲8九玉△7三桂▲7八金寄△5四銀▲3七桂△6五桂▲8六歩(図10)
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△6五桂のタイミングで▲8六歩と突いて,△7七桂不成▲同角△7六銀に▲8七銀を用意します。
一見形の悪そうな金の配置についてですが,▲7九金を保留して▲7八金寄+▲6九金の形で受けることでこの後若干有利に進めることができます(▲7九金+▲6八金で悪いわけではありません)。
図10以下△7七桂不成▲同角△7六銀▲8七銀△5六銀▲2四歩△同歩▲3五歩△同歩▲2六飛(図11)
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▲8七銀までは予定通りで,振り飛車は5六の歩を召し取ります。一歩持てば△6五銀と戻してから△7五歩▲同歩△7六歩などの攻め筋が生じるため,▲8七銀を指していても油断はできません。
それに対し,▲7九金寄と締めても一局ですが,最大のリターンを求めるならここで▲2四歩と突っかけます。△同角には▲1六桂があるのでこれには△同歩の一手ですが,▲3五歩△同歩▲2六飛と飛車の横利きで銀を追い返します。△2四同歩とさせた効果で△1五角と覗く手が指せなくなり,さらに▲4五桂の威力が増しています。
なお,▲7九金+▲6八金の配置で▲2四歩と指すと,△同角▲1六桂に△6八角成と強襲され,▲同金△7五歩▲同歩△6五銀(参考図3)から次に△7六金を狙われて居飛車が大変です。この場合は▲2四歩に代えて▲7八金寄と締めて一局です。
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図11以下△6五銀▲7九金△6三金▲5七銀(結果図4)
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結果図4は振り飛車から7六の地点を狙う攻めが難しい一方,居飛車は次に▲4五桂からの捌きや▲5六銀から銀交換して3四に打ち込む攻め筋があり,玉頭銀の狙いをいなした居飛車が主導権を握っている状況です。
▲7九金を保留して▲7八金寄を優先する指し方は△5四銀~△6五桂の攻めに対しては最大のリターンを得られる一方,△5四歩~△5二飛から動かれる場合に5筋の守りが薄くなってしまう嫌いがあります(参考図4)。そのため繊細に指すなら,振り飛車が早めに▲5四銀として形を決めてきた場合に▲7八金を優先するのがベストということになります。
このように,ミレニアム囲いにおける二枚の金の寄り方は振り飛車側の出方次第で最適解が変わる一面を持っています。
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まとめ
△6三金型なら△6五桂には▲8五桂
△5二金型の場合,△6五銀にあわせて▲2四歩と仕掛けるか,▲8六歩~▲8七銀で7六の地点を守る
△5四銀~△6五桂の仕掛けは,的確に対処すれば概ね居飛車の有利で進めることができるようです。振り飛車側としては自然な駒組から素早く仕掛けられる手順ですが,玉頭銀を空かされると成果を挙げられずに主導権を奪われる展開になりがちなのが苦しいところです。
(余力があれば)次回は△5四歩~△5二飛の攻防について書きます。
拙い内容にもかかわらず,ここまで御覧いただきありがとうございました。