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【全24試合プレイバック】スガコバの「キセキ」Vol.7
シーズン前はこんな「奇跡」が起こるなんて思いもよらなかった。
菅野智之が登板した24試合、全て小林誠司がスタメンマスクをかぶった。
幼いころから母親の影響でジャイアンツファンだったけれど
こんなにも好きになったきっかけは紛れもなく“スガコバ”バッテリーの存在。
私にとって宝物のようなシーズンだった2024。
2人の全24試合の「軌跡」を振り返りたい。
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「7試合目:ノーノー!?からの負け試合パターンからの逆転勝ち」
5月26日(日) 巨人 2‐1 阪神タイガース@甲子園球場
先発:菅野智之(巨人):才木浩人(阪神)
前々日の5月24日、巨人の戸郷翔征が史上89人目のノーヒットノーランを達成した。それに続くかのように菅野智之も阪神打線を相手に6回までノーヒットノーラン。見ているこちら側も「もしや……」「ある……?」とソワソワしてきた。きっと巨人ベンチも菅野に声をかけにくい空気になっていることだろう。
菅野の前回登板は5月11日。本来なら18日の広島戦に先発予定だったが体調不良のために登板回避となり、約2週間あけての登板だった。今日もバッテリーの相棒は小林誠司。初回から直球は150キロ台を計測し、テンポよくアウトを重ねてきた。ただ、阪神の才木浩人もリーグトップの5勝をあげているだけあってさすがの投球。ランナーを出しても併殺打に打ち取るなど要所を締める投球で巨人に点を与えなかった。
またも天敵・森下翔太の一打でノーヒットノーランは絶たれる
0-0の息詰まる投手戦で7回表まできた。菅野は先頭の中野拓夢をレフトフライに打ち取り1アウト。「いや、ほんとにあるかも、ノーヒットノーラン」と思いながら次のバッターを見ると、天敵・森下翔太だった。積極的で物おじしないバッター。「菅野を打つなら森下かも……」。宝くじは一切当たらないのにこういうときのいやな予感はよく当たる。森下は高めのストレート、アウトローのスライダー、ボール2球を見逃し、3球目のアウトローの直球を捉え、センターへツーベースヒットを放った。ノーヒットノーランは途絶えた。菅野は少なからずショックだったのだと思う。続く4番大山悠輔にもヒットを打たれ、1アウト1、3塁。5番渡邉諒にもしぶとくヒットにされ、阪神に1点を先制されてしまった。
蛇の心臓を飲んだ男・船迫大雅の火消し
ここで菅野は降板。顔には「マジか」という表情が浮かんでいた。たった1点。されど1点。いいピッチングをしてきた時に限って相手に先制点を取られてしまうと負け試合になりやすい。今振り返ると、この時期の菅野はまだ阿部監督から100%の信頼は得られていなかったのかもしれない。2番手に選ばれたのは、杉内投手コーチ曰く「便利なピッチャー」船迫大雅。2年目とは思えない強心臓の持ち主だ。阪神に1点を先制され、なおも1アウト1、2塁のピンチ。バッターはノイジー。長打を警戒しつつ、慎重にかつ思い切りよく投げ込み、セカンドフライに打ち取った。これで2アウト。さらに7番・梅野隆太郎をスライダーの連投で見逃し三振に仕留めた。小林が選んだのは船迫が一番自信のあるボール。船迫は自分と小林を信じて投げ切った。‟バサコバ″バッテリーは最少失点で切り抜けた。
4番岡本和真、土壇場で起死回生の同点ホームラン!
8回から阪神も勝ちパターンの継投へ。巨人は代打・立岡宗一郎のヒットでチャンスを作るも無失点に終わった。ビジターで、8回を終えた時点でリードされていたらさすがにあきらめモードに入ってくる。9回のマウンドには阪神の守護神、ゲラが上がった。3番吉川尚輝はセカンドゴロで1アウト。いよいよ負け試合濃厚。「先頭が出ないとなぁ……」とぼやいていたその瞬間、4番岡本和真が左中間へ目の覚めるようなホームランを放った!「ウソでしょ?」ドラマのようだった。まさかの9回表、1-1の同点。またも菅野の負けが消えた瞬間でもあった。
反撃の狼煙は小林のヒットから
巨人は勝ち越すことはできず9回裏の阪神の攻撃へ。マウンドにはドラ1ルーキー西舘勇陽。船迫から男気バトンを受け取り、気迫のピッチングで阪神のクリーンナップを三者凡退に抑えた。延長戦に入り、阪神のピッチャーは岩崎優。巨人のバッターは小林。3打席ノーヒットな上にチャンスでゲッツーといいところがなかった小林だが、この打席はとにかく岩崎のストレートに食らいついていた。ファウルで粘った6球目、ゆるいチェンジアップを捉えてセンター前ヒット。ノーアウト1塁。代走の重信慎之介が送られた。立岡がバントを決め、1アウト2塁。代打・岸田行倫がライト前ヒットを放ち、1アウト1、3塁。浅めではあったが丸佳浩の犠牲フライで2-1と勝ち越した。重信の足が生きた。今季は小林が打つと何かが起こる。‟スガコバ”の執念なのか勝ち運なのか、データには現れない何か神がかり的なものを感じた。
10回裏は岸田とバルドナードのバッテリー。ランナーは出したが、しっかり抑えてゲームセット。西舘が今季初の勝利投手になった。菅野は今日も負けなかった。のちに最多勝を争う菅野と才木。この日、才木の勝ちを消したことは地味にきいていたのかもしれない。次の"サンデー菅野”も楽しみだ。