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【全24試合プレイバック】スガコバの「キセキ」Vol.1

シーズン前はこんな「奇跡」が起こるなんて思いもよらなかった。
菅野智之が登板した24試合、全て小林誠司がスタメンマスクをかぶった。
幼いころからジャイアンツファンだったけれど、
こんなにも好きになったきっかけは紛れもなく"スガコバ”バッテリーの存在。
私にとって宝物のようなシーズン。
2人の全24試合の「軌跡」を振り返りたい。

***

1試合目「シン・スガノ、相棒との再会」

4月4日 巨人 2ー0 中日ドラゴンズ @バンテリンドーム
先発:菅野智之(巨人):梅津晃大(中日)


開幕から6戦目に巡ってきた先発。ずっと巨人のエースと呼ばれてきた菅野智之からすると少し物足りないローテ順だったろう。しかし昨季4勝8敗で終わったことを考えたら当然の評価ともいえる。だからこそ今日は勝たなくちゃいけない。男の意地を見せるため。3連敗中の巨人の悪い流れを止めるため。657日ぶりの“スガコバ”で。

2017年にも最優秀バッテリー賞を受賞し、相性抜群と言われた同学年キャッチャー・小林誠司は打撃に課題があり、ここ数年、スタメン機会は減少していた。2人が公式戦でバッテリーを組むのは2022年6月17日の中日戦(バンテリンD)以来。

初回の菅野はやや硬くなっていた。先頭の上林誠知にいきなりのフォアボール。一瞬で、昨季の悪いときの菅野の投球が蘇る。針の目を通すような菅野の制球力もこだわり過ぎると仇になる。昨季も厳しいところを狙い過ぎてフォアボールになったり球数がかさんでしまったり、それでリズムが悪くなり、打ち込まれるケースがよくあった。

今季もまた……。

しかし、心配は杞憂に終わった。
2番田中幹也に送りバントを決められたものの3番高橋周平をレフトフライ、4番中田翔をセンターフライに打ち取って3アウト。奪三振を狙うよりも打たせて捕るピッチングでアウトを重ねていった。

昨季21試合の出場に留まり、ほとんどベンチから試合を見ているだけだった小林は菅野に対し、春季キャンプの際に「こうすればもっと簡単に打ち取れると思うよ」というアドバイスを送ったという。あくまで想像だが、私は「三振を狙うのではなく打たせて捕る」ピッチングを提案したのではないかと思う。完璧主義で“自分がやらねば”と気負ってしまう、根っからのエース気質の菅野に対し、小林は「三振を捕るには最低3球必要だけど、内野ゴロなら1球で仕留められることもある。そのほうがテンポよくアウトを取れて、攻撃にもいいリズムが生まれるんじゃないか」そんなふうに伝えていたのではないだろうか。もちろんそこには内外野を守るチームメイトへの絶大な信頼感が欠かせない。仲間を信じて打たせて捕ろうよ、と。

それを象徴するようなシーンが5回にあった。

捕らない勇気

5回裏、中日の攻撃。1アウト1塁、ランナーは上林、バッターは木下拓哉。打った打球はピッチャーゴロかと思われたが、菅野は手を出しかけて引っ込めた。すかさずセカンドの吉川尚輝が回り込み、4-6-3のゲッツーに仕留めた。こういう時、ピッチャーはアウトが欲しいから本能的に自分が捕ろうとしてしまうと聞く。しかし菅野が捕ればおそらくワンアウトしか捕れない。菅野はナインを、吉川の守備を信じて、あえて捕らなかった。解説の“熱男”こと松田宣浩氏も「菅野の超超ファインプレー」と絶賛。捕らない勇気が功を奏した。

菅野は7回4安打無失点。8回中川皓太、9回大勢と勝ちパターンでつなぎ、3回表に岡本和真のタイムリーヒットで先制した2点を守り切って、2-0で勝利。菅野は巨人の連敗を止め、価値ある1勝目を上げた。

後日、この日の試合前の2人の様子がジャイアンツの公式YouTubeにアップされた。

いたずら大好きでいつも笑顔の小林がひとり静かに“祈り”を捧げていた。菅野を、ジャイアンツを勝たせるために。勝てる捕手になるために。

ブルペン投球を終え、菅野と小林はお互いに、そしてコーチ陣とグータッチをしたあと、菅野は自分の緊張を落ち着けるようにもう1度小林にグータッチを求める。

どれほどのプレッシャーがかかっていたのだろう。

阿部新監督が掲げる「新風」というテーマのもと、菅野も自身に新たな風を吹かせ、再起を決意した。それはひとりではなく最高の相棒との船出。

だから大丈夫。“復活”ではなく”進化”した“シン・スガノ”を目指して、2人の船は動き出した。


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