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【全24試合プレイバック】スガコバの「キセキ」Vol.5
シーズン前はこんな「奇跡」が起こるなんて思いもよらなかった。
菅野智之が登板した24試合、全て小林誠司がスタメンマスクをかぶった。
幼いころから母親の影響でジャイアンツファンだったけれど
こんなにも好きになったきっかけは紛れもなく“スガコバ”バッテリーの存在。
私にとって宝物のようなシーズンだった2024。
2人の全24試合の「軌跡」を振り返りたい。
***
「5試合目:負けない男、スガノ」
5月4日(土) 巨人 2-1 阪神タイガース@東京ドーム
先発:菅野智之(巨人):西勇輝(阪神)
木曜日の男から土曜日の男になった。
開幕前、阿部監督は菅野智之を休ませながら投げさせると言っていたが、菅野は初戦の4月4日から4試合、中6日のローテを守っていた。ここまで3勝。まだ負けはなし。昨季4勝しかしていないのがウソみたいだ。相変わらず打線の調子は上がってこないけれど、粘り強く、頑張って。
阪神の西勇輝投手とは早くも今季2度目の対戦になった。巨人は変わらず菅野‐小林誠司の同学年バッテリー。阪神は前回とは違って西‐坂本誠志郎のバッテリーだ。ちょっと違った攻め方をしてくるかもしれない。間違いなく今日も投手戦になるだろう。
菅野の天敵・森下翔太
1回表、菅野は2アウトから森下翔太にツーベースヒットを打たれ、ネクストバッターは4番大山悠輔。得点圏打率の高い、こわいバッターだ。一打先制のピンチ。目を細めながら恐る恐る試合経過を見守ると、心配をよそに2球でショートゴロに打ち取り、無失点に終わった。大山は5月の月間打率.182。過去に見たことがないほど打撃不振に苦しんでいた。巨人サイドからすると救われた。
1回裏、巨人打線も立ち上がりの西を打ち崩しにかかった。2番佐々木俊輔がシングルヒットで出塁すると3番吉川尚輝が右方向へのツーベースヒット。俊足を生かして佐々木が一気にホームベースを狙ったが、阪神のライト森下→ショート小幡竜平→キャッチャー坂本へ、ムダのない連携プレーでタッチアウト。森下も小幡も素晴らしい送球だった。
野手の好守備に引っ張られるように、西はぐんぐん調子を上げ、巨人打線を手玉に取るように三振の山を築いていった。「1回裏の佐々木がセーフだったら……。先制点が取れていれば……」と“たられば”が頭をよぎる。菅野も打たせて捕る今季のスタイルで好投を続けていたが、4回表、またも森下にツーベースヒットを打たれ、ノイジーのタイムリーヒットで阪神に1点を先制されてしまった。
背中でナインを引っ張る
ここ2試合、先制されている。疲れが出てきて菅野の球の威力が落ちてきたのかな。スガコバの配球も研究されてきちゃったのかな。開幕から20イニング無失点だったインパクトが強くて、私の脳内は異常な心配性になってしまっている。でも、と自分を奮い立たせる。今季の菅野は昨季とは違う。先制点を取られてもイライラせず、瞬時に切り替えて最少失点で抑えている。
2024年4月8日放送のCS番組『超ジャイアンツ』で小林が今季の菅野が進化した部分を問われ、「昔は全員の打者を抑えてやろう! 完璧に抑えてやろう!という感じがあったが、今季はしっかりバッターとゾーン内で投げてバットを振らせて勝負できている。それが球数やテンポに表れていると思う。リズムが良くなると野手も守りやすくなる」と語っていた。
打たれても引きずらず前向きに、ひとりひとりのバッターと向き合って懸命に投げている菅野の姿をナインは見ている。きっとその姿は「次こそ俺らが」「菅野を負け投手にしないぞ」とナインの士気を高めているはず。
菅野は追加点を許すことなく7回まで投げ、1-0のまま降板した。巨人は8回からバッテリーごと大江竜生投手と大城卓三捕手に交代。大江は球のキレも制球もよく、阪神の一筋縄ではいかない1番近本、2番中野、3番森下に仕事をさせなかった。
8回裏、阪神の西は勝ち投手の権利を持ったまま降板し、マウンドには岩崎優が上がった。守りからリズムが生まれた巨人は8番門脇がヒットで出塁、代打増田大輝が送りバントを決め、1番丸佳浩のタイムリーヒットで1-1の同点とした。
その瞬間、好投を続けてきた西の初勝利が消え、菅野の負けも消滅した。
前日に右肩の違和感で戦線離脱した守護神・大勢に代わり、9回表はルーキーの西舘勇陽、10回表はバルドナードがマウンドに上がった。どちらとも大城とのナイスバッテリーで阪神打線を0点に抑えた。そして迎えた10回裏、阪神のピッチャーは漆原大晟。ランナーフルベースから吉川尚輝がセンターへヒットを放ち、サヨナラ勝ちを決めた。キャッチャーの小林と大城がベンチから飛び出し、抱き合って喜んでいる姿が印象的だった。ライバルだけど最大の理解者。チームを勝たせたい思いは一緒だ。
勝ち投手はバルドナードだが、今日も菅野は負けなかった。
スガコバの不敗神話は続く。