大水のあと
1997年12月10日(水)
のどかな日差しのもと、縁側に鳥の巣。二羽のひな。ふわふわの羽毛が光に包まれているのを眺めながら、これは鷲だったろうか、鷹だったろうかと考えた。思い出せなかった。なんにしても、頑強な猛禽の子なのだった。
地面に穴が掘られ、埋め戻されている途中のようだった。鋤き返したような土だった。
わたしにはわからないものが見え隠れしていた。
大水が引いたあとのような水溜まりに、凝った意匠の小さい魚─飴玉みたい─が泳いでいた。
巣の中のひなたちが人間の姿でそこにいた。兄と妹は栄養が不足しているのがわかった。色とりどりの小魚たちは、ひなに丁度よい食事になると見えたので、「あれはどう?」と小豆色でひらひらした尾の魚を示した。兄は、よくないと言った。
黒揚羽を思わせる鯉が、明るい砂色の泥の中を流れてきた。水がほとんどないのでおなかで滑っていた。
いかになんでも大きすぎる。わたしたちは見送った。
兄は白い服、妹はすっかり白くなったピンクの服。
兄をわたしはしっかと抱きしめた。妹が快く思っていないことはわかっていた。でも、抱きしめた。はっきり骨を感じるからだだった。
墓穴のようなところでハート形の籐?の団扇を拾った。団扇の面の近くでかくっと直角に曲がっている長い柄。
女の人が、彼女の価値観で生きるようにわたしに勧めた。断っても、「わたしのは素晴らしいんだから」と言うばかり。
彼女は彼女の大きな翼でわたしを庇護したいと思っていた。
不思議な気持ちで彼女を見た。
あなたには最高でも、わたしにはそうじゃないのです、とこころで言った。
東欧の老婆が画面に映っていた。民族衣装を着て、黄色のスカーフで頭を覆っていた。腕にチューブが見えた。献血なのか、点滴なのか、売血なのかわからなかった。
玄関があいていて外が見えた。裸の月─白っぽいズボンははいていた─がいた。胴に入れ墨したような○と╳がたくさんついていた。月は金の満月。