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往かなきゃならない

1997年11月25日(火)
駅。ホームと葡萄畑が直結していた。
葡萄畑の年寄りは、自分が丹精した葡萄がある権威に褒められたと自慢した。こういう喜びかたは罪がないようだけど、そういうことを言いたがる人は根本のところを他人に委ねてしまっている。拠って立つところが自分ではないので無責任で危険だ。本人にとっても、他の人にも。

電車が動き出した。二房の葡萄が垣間見えた。異形。房が長すぎる。増殖しつづけるがん細胞のようで気味が悪かった。「怒りの葡萄」ということばが浮かんだ。

ある建物の階段を上がった。美しい階段だったが実用的ではなかった。曲線でできていて、足を置く板の幅が狭い上に滑る。両側の手摺は太すぎて掴まるのが大変だった。落ちる心配をしながらわたしは踏ん張って上っていたというのに、二人はローファーですたすた。

変な帽子がたくさんあった。網で作った大きな大きなつば広の帽子をかぶってみた。意外な重みに驚いた。鏡に映るわたしの顔はわたしではなく、人形になっていた。重みに耐える子どものようだった。
こんなものを頭の上に載せていてはいけないなと思った。

わたしたちはここで遊んでいるばあいではなかった。あっちの遠くに「用」があるのだった。往かなきゃならないのだ。

二人はなんで恐がってたんだろう。

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