おこぜ
1997年8月18日(月)
夜ではない道をたぶん北へ歩いている人波の最後を、ずるずるわたしは歩いていた。目の前にはふたりの若い男たち。右の人は元気そうでたくましい。左の人は健康そうじゃない。
わたしは落胆のあまり膝をついて泣き崩れた。ハンカチで両目を押さえつつ。非常に惨めだった。娘とふたりの男たちが助け起こそうとしてくれた。
元気そうな男─面識はないがわたしは彼を知っている─がうれしそうに言った。
「や、a、堂々としているね。
頭からおこぜがとれたね」
堂々と? こんなに惨めな気持ちで泣いているのに?
おこぜ?
やっと四つ角へ来た。先へ行く前にお茶をのみたい。娘はたぶん、紅茶をのませてくれるだろう。
わたしの大切な猫は行方不明だった。真っ白で、アクアマリンの目を持っている。
名は、三井・みいだって。勝手に赤ちゃんを生んだらしい。
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