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『初春狸御殿』:1959、日本
狸の国、カチカチ山に住む娘・お黒は、心の優しい娘だ。父の泥右衛門は人間を騙しても平気だが、お黒は罪悪感を抱いてしまう。泥右衛門は、かつて兎にやられて火傷を負った。その古傷に塗る薬を売りに来る栗助と、お黒は惹かれ合う関係にある。
ある日、鉄砲の音を聞いたお黒と泥右衛門は、慌てて番傘に化けた。そこへ、狸御殿の腰元たちが現れた。急に雨が降って来たため、腰元たちは番傘を差して御殿へ戻った。元の姿に戻ったお黒と泥右衛門だが、腰元たちに見つかって捕まえられてしまう。
狸御殿では、きぬた姫と見合いをするために隣国の若君・狸吉郎が来ることになっていた。ところが人間に憧れるきぬた姫は、狸の夫は嫌だと言って御殿を抜け出してしまう。困った家老の狸右衛門や老女・狸路は、姫に瓜二つのお黒を身代わりに立てる。
お黒に会った狸吉郎は、すっかり彼女に惚れてしまう。きぬた姫は一向に戻らず、その間に狸吉郎とお黒は互いを想う気持ちを深めていく。そんな中、人間に相手にされなかったきぬた姫が、狸の国に戻って来た。きぬた姫は泥右衛門の家に現れ、休ませてほしいと頼む。泥右衛門は娘の出世の邪魔になると考え、きぬた姫を殺害しようと企む…。
監督&脚本は木村恵吾、製作は三浦信夫、企画は山崎昭郎、撮影は今井ひろし、編集は菅沼完二、録音は大谷巖、照明は岡本健一、美術は上里義三&西岡善信、舞踊振付は飛鳥亮、振付は西崎真由美、擬闘は宮内昌平、作詞は佐伯孝夫、音楽は吉田正。
出演は市川雷蔵、若尾文子、勝新太郎、中村玉緒、近藤美恵子、仁木多鶴子、金田一敦子、中村鴈治郎(二代目)、菅井一郎、水谷良重(現・水谷八重子)、楠トシエ、江戸家猫八(三代目)、三遊亭小金馬(現・三遊亭金翁)、トニー谷、神楽坂浮子(ビクター)、藤本二三代(ビクター)、松尾和子(ビクター)、真城千都世、大和七海路、美川純子、使英美子、小町るみ子、岸正子、毛利郁子、小浜奈々子(N・M・H)、左卜全、嵐三右衛門、上田寛、三上哲、沖時男、中沢銀司(ビクター)、寺島雄作、和田弘とマヒナ・スターズ(ビクター)、ビクター少年民謡会、大阪松竹歌劇団。
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様々な会社で作られている“狸御殿”映画の1本。
メガホンを執った木村恵吾は、これ以前にも最初の“狸御殿”映画である1939年の『狸御殿』を新興で、大映で1942年の『歌ふ狸御殿』と1949年の『花くらべ狸御殿』を撮っている。
これは時代劇ミュージカルである。そういうジャンルが昔は存在していたのだ。おバカな正月映画として見ると、かなりイケている。
今見ると陳腐に感じるセットも、ある意味ではイケている。もはやサイケですらある。
まずは、お黒が歩くシーンで女声コーラスによる歌が入る。栗助の登場シーンでは、勝新太郎が歌声を聞かせる。
そのシーンでは、河童の毛利郁子と小浜奈々子がバックで踊る。この2人、お色気を強調した、かなりセクシーな衣装である。
分かりやすいセットと河童の登場シーンを見れば、その辺りで今作品のテイストは掴めるはず。
さて、腰元たちが登場して何やら会話を交わした後、「さらば人間の曲を」と言って、ソーラン節を歌い出す。何が「さらば」なのかは分からないが、深く考えてはいけない、
そこでは水谷良重がメインヴォーカルを取り、他の腰元たちは合いの手を入れながら踊る。
さて、場所は変わって狸御殿。
狸吉郎を迎える催しとして、舞台を使ってのショーが披露される。ここでは姫の面々や腰元たちの他、大阪松竹歌劇団が登場。各地方の歌を、それぞれに合わせて背景や衣装を変えながら歌い踊るショーが展開される。
ここでは、市川雷蔵も登場と共に自己紹介の歌を披露している。ただし、かなり短いし、吹き替えだ。
本人の歌声が使われなかった理由は、『マイ・フェア・レディ』のオードリー・ヘプバーンと同じ。つまり、お世辞にも歌が上手いとは言えないのだ。
だから、最初に短い吹き替えの歌があった後、かなり長くショーが続くのだが、雷蔵は全く歌わない。そのまま、映画が終わるまで踊りオンリー。
ミュージカル映画の主役なのに、ほとんど歌わないという奇妙な状態だが、前述した事情があるのでね。
しかし、それでも構わないのだ。クレジットとしては雷蔵が主役だが、実際にはショーを見せることが目的の映画だ。
つまり、ショーこそが主役なのである。
だから、他愛の無いストーリーでもいいのだ。話なんて、ショーを繋ぐためだけにあるのだから。
というわけで、ショーのシーンは一度だけではない。
「また狸吉郎が御殿にやって来たので、お黒を呼びに行くまで時間稼ぎが必要」ということで、再びショーになる。今度は和田弘とマヒナ・スターズがムード歌謡を歌い、さっきとは趣向を変えている。
冷静に考えてみれば、ちょっと妙な話なのである。だって、ずっと狸吉郎とお黒が惹かれ合っているという流れを続けているのに、最終的には唐突に狸吉郎&きぬた姫、お黒&栗助というカップルを作っているのだから。
でも、そこは突っ込んではダメなのだ。
とにかく歌と踊り、華やかなショーを楽しむ、そういう映画なのだ。
(観賞日:2004年5月6日)