塩とコーヒーと私
コーヒーはお好きだろうか。最近流行りのダルゴナコーヒーだったり、カフェアートだったり、エスプレッソだったり…いろんな楽しみ方があり、カフェに行ってもどれがどれだかわからなくなることもしばしば。私の周りには自宅で焙煎したり、エスプレッソマシンを買ったりしている友人が結構いて、家で楽しく過ごす術を持っているなあと感じる。本格的なコーヒーを楽しめる場所が近くなったような気がする今日だが、同時にチープなコーヒーも美味しくなっているように感じる。例えばコンビニコーヒー(私はセブン派)。そして美味しいとかなんとかいうよりも、なんだかんだ好きなのが缶コーヒー。これといった好みのメーカーがあるわけではないが、高速道路のパーキングに寄って、自販機で買う缶コーヒーが妙においしい。ドリップしてくれる自販機もあるが、結局缶に落ち着いてしまう。夏はアイス、冬はホット。春と秋は気分次第。無糖が多いけど、加糖も捨てきれず…。缶を開ければ思い出までよみがえりそうな幸せな香り。それ、香料だよ、と言ってしまえばそれで終わりだが、うまく騙されておいしく飲めるのもある意味幸せかな、と思うまでがオチである。
それなりにコーヒーを飲んでいる部類に入ると自負しているが、どこの店が美味しい、とか、淹れ方の工夫がうんたら、とかそんなことはさっぱりわからない。ちょっとだけおいしい淹れ方も勉強したし、その界隈では凄い人(そう紹介されたのでたぶんそうなんだろう)に会ったこともある。でも自分が美味しいと思うコーヒーを淹れること、の範疇をいつまでも超えない。趣味のなかでも、かなり日常的。土曜の午前中に業務スーパーで買ってきた豆でコーヒーを淹れて満足しているのが現状。それが悪いこととも思っていないが、まあ、趣味と言っていいのだろうか?とは多々思う感じ。それでも、部屋に広がるコーヒーの香りだったり、淹れ方ひとつで味が変わる不思議だったりは好きだな、と思う。
コロナで世界の状況が一変するまでは、それなりに海外に行く機会があり、各地のコーヒー豆をお土産に買っていた。ネスレ、スターバックス等をかいくぐってご当地の企業が販売している商品を見つけるのは意外と難しく、世界の画一化を感じたりするわけだが、それでも探せばあるのでどうにか探す。帰ってきて淹れてみると、違いなんて、うーんなんとなく軽い?とか、ちょっと酸味強めかな?ぐらいしかわからない。でもそうか、これがあの国のコーヒーなんだな、と考える時間がいい。朝、あわただしい中で薄切りのトーストを流し込むために淹れるのかもしれないし、昼下がりにチョコレートやクッキーと一緒にブレイクするために淹れるのかもしれない。はたまた就寝前一日の終わりに楽しむのかも…ありきたりな想像で恐縮だが、私にとってはそんなくだらないことを考えられるお土産だったりするのである。
コーヒーは世界各国、どこでも飲まれているといっても過言ではない。そしてやはり土地柄が出るもので、それぞれの楽しみ方がある。郷に入ったら郷にできるだけ従いたい人間なので、現地で試してみるが、いやーどれも美味しい。しかし、家では冒険しないので、ちょい足しには疎いという一面があった。ミルクとかコンデンスミルクとかは間違いなく美味しいのがわかるので別として、聞いたことがあるのに試さなかったアレンジが「塩」。しかしながら、ふとした瞬間になぜかハードルは下がるもの。それが私にとっては今日だった。
いつものように業務用の豆でコーヒーを淹れ、いつものように飲んでいたら、思ったより酸化が進んでいて酸っぱい。これは何かしないと飲めないな…と思ったが、牛乳はなく、砂糖を入れても酸味はそんなに緩和されないのは経験済み。じゃあ、塩か?と、あれだけコーヒーと塩は合うよ!という記事を読んでも試さなかったのに、なにも恐れることなく一つまみ加えていた。…美味しい。酸味が丸くなり、さらにミネラルが溶けたからなのか味わいが濃くなっている感覚。なるほど…これが塩コーヒー…後味すっきりで美味しい…と語彙力をどこかに置いてきたような感想だが、こんな感じだった。
なぜコーヒーに塩を入れると美味しくなるか調べてみた。すると、抑制効果(2つ以上の味覚を感じた時に、片方の味覚がもう片方の味覚を弱める働き)が生じているかららしい。塩を入れることで舌は塩味を感じるため、コーヒーの苦味や酸味を感じにくくなり、同時に塩味も苦味や酸味によって抑えられる、という仕組みだそう。おそらくこれは砂糖を加えたときも同じだと思うが、味覚の種類が違うため感じ方が異なると推測できる。エチオピアでは2杯目は必ず塩入りらしく、結構メジャーな飲み方。メジャーなのは知っていたが、日本でも美味しいと思えるのだろうか?というのがこれまで躊躇してきた理由だった。その場所で飲んだり食べたりしたときは美味しくても、お土産として買ってきたらなんか違った…という経験はないだろうか。その場所で食べるから美味しいものもある。きっと塩コーヒーもその類、と勝手に思っていた。結果、全然大丈夫だった。
私が塩コーヒーを初めて知ったのは辺見庸の『もの食う人びと』。考えてみればもう7年近く前の話である。もの食う人びとでは、バターコーヒーも登場するが、これはまだ試せないでいる。でも塩コーヒーを経験した今は、バターコーヒーもわかるような気がしないでもないな、と思ったり。バターは高いので…まあ臨時収入があったらやってみてもいいかもしれないな、程度には興味が出てきた次第である。でも、バター…。飲んだことがある人がいたら是非感想を聞かせてほしい。
そうか、塩コーヒーを知ってから実際に試すまで、私は7年もかかったのか、と他人事のように驚いた。私は自分が思っているよりも保守的なのかもしれない。そしてコーヒーを人に出しても大丈夫程度に淹れられる次元から抜け出そうとしないという事実。取り組むことすべてに向上心を持っているわけでもないんだな、とも思った。でも、そういう趣味があるから適当な時間をちょっといい時間にできるとも思うから、まあ、これはそんなに気にしないでいいかな、と思い直している。
私とコーヒーと塩、を並べて見えてきたのは、味覚に対しては実は保守的で、趣味と言いつつ取り組み方には幅がある「にぐち」という人間だった。皆さんはコーヒーに塩を加えて飲んだら、そこからなにを考えるのだろう。自宅待機の暇つぶしに、塩コーヒー、ぜひお試しあれ。
2020年4月25日初稿 5月5日改定
~今回参考にした記事はこちら~
塩をコーヒーに入れると意外にイケる!エチオピアの伝統方法
https://hackcoffeebeans.com/salt/
辺見庸 『もの食う人びと』、角川文庫
(Amazonにとびます↓)
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