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一観客は「演劇を救え!」るか

舞台を観に行くのが趣味になったのはわりと最近だ。なんだろう、すごく高尚な趣味のような気がしていて、私ごときが観に行っていいのか…と躊躇していた時期が長かった。あと、芸術を理解する金持ちがいくもの、というイメージはかなり根強かった。これを打ち砕いてくれたのは2.5次元作品である。初めて見た2.5次元作品はミュージカル『刀剣乱舞』~阿津賀志山異聞2018巴里~だった。なぜ舞台を観に行ってもいいんだ、と思えたかというと、観客がほぼ同年代だったからである。(もちろんいろんな世代の方が楽しんでいる。)結局は先述したようなイメージが強くて行けなかったわけで、そうじゃないんだということを知ったとたん一気に気が楽になった。そうか、私も観に行っていいんだ、とそんな当たり前のことに気づいたのを思い出す。友人に連れられて観に行った作品だったが、それはそれはすごかった。一瞬で時が過ぎていく、そんな初めての感覚だった。チケット代が安いとさえ思った。これをきっかけに、自分から演劇にアプローチするようになった。

以来、推しがいる作品はもちろんだが、それ以外にもミュージカルにはじまり朗読劇や埋没型、体験型の作品など、色々観に行くことができた。同じものは二度とないというスリル、同じ空間で呼吸をしている・同じ時間を共有しているという特別感、役者も同じ人間だということに毎回衝撃を受けるあの感じ。そして始まるまでのそわそわした時間も、劇場に観に行くからこそ生じるものだ。少しずつ心身の準備をしながらあれこれ考える時間はなににも代えがたい楽しみであるし、劇場に入る前にちょっとお茶をしたり、ふとチケットを眺めては落ち着かないでふわふわするのも好きだ。劇場に入れば、特有のにおいで自分が出るわけでもないのに一気に緊張し、座席に座り目を閉じて深呼吸する。開演前のアナウンスで何かが弾けるような感覚を覚える。幕が上がれば瞬きすら惜しいほどの愛しい時間を過ごす。笑ったり泣いたり、声を出したり、キンブレを振ったり…そして必ず終わるからいいのだ。終演後、座席でふっと肩の力が抜けて、帰り支度をする観客をぼんやり眺めながら、人間てこんなに興奮できるんだ…といつも思う。今日まで生きてきてほんとによかった、しょうがない、明日からも頑張るか、となぜか前向きになっているのも不思議だ。帰路についても、興奮が抜けきらなくて始まる前とは違った意味でふわふわする。そして次の予定に向けてまた日常を頑張り始める…。

私の場合、生活にメリハリをもたらし、心身ともに支えてくれたのは、舞台を観に行くという予定そのものであり、作品によって与えられたエネルギーだった。しかしながら、これから先、同じように演劇を享受できるかわからない。まったく同じ形態では演劇を楽しめないかもしれない。まず、演劇が続いていくのかもわからない。

シアターコンプレックスは、新型コロナウイルス感染症の影響により大きなダメージを受けている舞台業界に希望を与えるために発足したプロジェクトである。ずっと動向をうかがってきた。「舞台を救え」とはどういうことなのか。集まった資金はどのように使われるのか。色々な意見を聞きながら、トークライブを見ながら考えてきた。私は賛同することにした。私一人の支援ではどうにもならないことが、同じようなことを考える人々と一緒ならできることも増えるかもしれない。演劇の力に助けられてきた一人として、一観客として何かできるとすれば、今はこの企画に参加することなのかな、と結論付けた。新しい演劇の形を探してくれそうなのがいい。どうかこの事態を悲しむのではなく、次につなげてほしいな、と期待を込めて。

シアターコンプレックスは6月7日の23:59まで。興味が出てきた人は覗くだけでも。


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