【365日のわたしたち。】 2022年3月16日(水)
お揃いのクマのキーホルダーは、鮮やかな黄色から黄土色にくすんできていた。
小学校5年生から今までずっと同じクラスだった私たちは、周りからも言われるほど「仲良し」だった。
お揃いのクマのキーホルダーを鞄につけ、お揃いで色違いのシャープペンを買って、
「うちらズッ友だね!」
とお互いに笑いあった。
私としては、もちろん高校も同じところを目指す気でいた。
だから中学3年に上がったあの春、彼女の口にする言葉がまったく理解できなかった。
「高校は、東京の私立を目指すつもりなんだ。」
私の中学校でも、毎年何人かは東京の私立高校を狙って受験をする。
そういう人たちは「意識高い系」と揶揄され、休み時間も一人机に向かっているという話を、部活の先輩たちからよく聞いた。
(もちろん馬鹿にした意味で)
その話は、彼女も私と一緒に聞いていたからよく知っているはずだ。
「ずっと勉強したかったことがあってさ。そこの私立高校に入れば、専門の学部がある大学まで基本的にエスカレーターなんだ。早めに頑張るに越したことはないかな、と思って。」
そう打ち明けた彼女の気まずそうな顔に気が付きつつ、私はつい、こう答えてしまった。
「へぇ〜。なんだ、そんなに意識高い系だったなんて知らなかったよ。」
その言葉を聞いた彼女の表情は、今でも忘れない。
彼女の真摯な夢を、「意識高い」の一言で片付ける親友にきっと愕然としたはずだ。
「うん。そうなの。」
そう言って彼女はこの話を終わらせた。
「まずい」とは思ったけれど、私もなんだか引くに引けず、そのまま家に帰った。
夜、なんだか自分を肯定したくて、安心したくて、
「受験頑張ってね。応援してるよ!」とLINEしたけど、
彼女からは「ありがとう」を意味するスタンプが一つ送られてきただけだった。
より一層、不安が増して寝れなかった。
LINEなんて送るんじゃなかった、と逆に後悔した。
そこから彼女は塾に通い出した。
だからもう一緒に帰れない、と言った彼女は、私ではないどこか遠くを見ている気がした。
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この3月、彼女は無事に私立の高校に合格した。
先生に合格報告に来ていた彼女に、職員室の前で偶然出くわした。
「合格したよ。」
「そっか。おめでとう。頑張ってたもんね。」
「ありがとう。うん。また卒業式でね。」
3月16日の卒業式まで、私たちは会わないということか。
放った言葉は、自分の言葉なのにもう取り戻せないし、取り消せないし、訂正もできない。
今日、3月16日。
久しぶりに、そしておそらく彼女に会う最後の時に、私は彼女にどんな言葉をかけたら間違えてないことになるんだろうか。