短編140『作家生活14』〜ステマ篇〜
紙の上でアドリブをしているようなものだ。
この短編小説チャレンジをジャズに例えるならば。
初めに出した音が次の音を呼び込むように、一つの文章がまだ見ぬ言葉を喚起する。
それはモーダルなもので、気ままに転調したり、
時にアバンギャルドでフリーキーな音も出す。
*
小節数は決まっていない。
終わるべき時が来れば自然、終わる。
最低限のビートさえあればいい。
私はそれに乗ってフリースタイルにラップしている。
この短編小説チャレンジをヒップホップに例えるならば。
言葉の連射、煙草はガンジャ、フィニッシュ顔射。
常に渡るタイトロープ、船に括るマイクロスコープ。
書くことにしがみつく俺は、飽くことなきしがらみの奴隷化。
Yo!
*
「今は俳優にしろ芸人にしろ、遅咲きがブームみたいだね」
テレビでは、二十年の下積みの末、ようやく花開いた俳優と四十も半ばでお笑いグランプリを制覇した芸人が対談をしている。
「ここに私が加わっていないのはどういうことだね」
私は担当くんに訊ねる。
「センセの場合はテレビの枠に収まりきらないのとちゃいますか?」
「うむ…。一理あるな」
かといって、収まるべき鞘は見つからなかった。
「つまり、だ」私はお茶に手を伸ばした。静岡県産の高級茶葉。「私はテレビ向きではない、と」お茶は苦かった。世間、みたいな味がした。
「テレビ出たいんどすか?」
「まぁ…昭和の尻尾に生まれたからね」
「YouTubeでええんとちゃいますの?」
「もうやってるさ。視聴回数ゼロ回が立ち並ぶ、魅惑のトランペットワールドをね」
私は末端だった。底辺だった。底も底、YouTube社のクラウド容量を無駄遣いする男。それが私だった。
「でも、YouTuberって稼げますのやろ?」
「誰も私に『er』を付ける気などないらしい。だから広告の依頼もない」
「登録者数がーーー」
「何でもかんでも『数字数字!フォロワー数フォロワー数!』…なんて時代だ」
YouTubeアカウントの登録者数はゼロ人。Twitterは九十五人。このSNS社会にあって、私は存在しないも同義だった。おい。ここにいるぞ。早く見つけてくれ。
「ステマでも何でもやるつもりはあるんだ。仕事をください!」
*
最近、寝付きが悪くて困ってたんだけど、
友達が勧めてくれた【ヨルネル】@usodennen を使ってみたら調子良かったので紹介します。
目覚めちょースッキリ〜。
使った日の夜からぐっすりで
朝まで一度も起きなかった!
それって驚き〜。
徹夜作業も多いので、これからお世話になります!
*
「急にどうしたんどすか?」
「ちょっとステマの練習を、ね」
「センセ、すぐ寝はるくせに。薬いらずやんか」
「ステマだからね。いくら嘘をついても許される世界だと聞いているよ」
「『友達が勧めてくれた』って、センセ、友達…おらしまへんやろ?」
この世界は哀しい嘘に溢れていた。
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