短編130.『作家生活13』〜タモさん篇〜
「人生は金じゃない」という言葉が成功者の口からしか聞かれないのと同じように、
「いくらフォロワーが多くても結局、量より質だよ」という台詞は多数のフォロワーを抱えるアカウント主からしか聞かれない。
Twitterのフォロワー数が百人にも満たない私が同じことを言おうにも、
そこには迫力も実績も無い。
影響力も無ければ、説得力もない。そして何よりカッコよくない。
私はカッコよくありたい。
何故って?男だからだ。
それ以上の説明は要しないだろう。
*
「やばいな…タモさんに呼ばれたらどうしよう」
私は焦っていた。益々磨きのかかるトランペットの音色に。
「タモさん、ってあの”タモさん”どすか?」
背後の声の主は薩摩おごじょの担当くんだ。似非京都弁もだいぶ耳に馴染んできた。
「ノーベル賞より先にミュージックステーションに出ることになるかもしれない」
あの特徴的なテーマソングが聴こえてくる。私も遂にあの階段を降りる日が来るのか。どうやって登場しよう。おちゃらけるか、はたまたクールに?マイルズ好きのタモさんのことだ。クール、の方が良いかもしれない。
「センセ、バンドしてはるのですか?」
それが問題だった。
「先日解散したよ。音楽性の違いだ」
「あら。結構、長くやってはりましたの?」
担当くんが首を傾げる。着物の襟から見えるうなじ、短い髪を纏めたことによる撥ねた産毛が美しい。
「いや、ライブはおろか、一度もスタジオには入らずじまいだ」
「ほな、どないでっか?ソロでおまんの?」
おまん?京都弁ってなんだか卑猥だ。
「センセのソロ演奏、様になるんやろなぁ。惚れ惚れしてしまうわ」
鹿児島産京都弁女子を前に、どう解釈すれば良いのか分からなかった。
しかしソロか。悪くない。全てのカメラが私を狙う情景を想像してみた。あっちのカメラに私、こっちのカメラにも私。まるでGACKTじゃないか。その流れで【芸能人格付け】番組にもお呼ばれするかもしれない。全て当てる自信は有った。
「でも緊張しまんね。生、なんて」
この子は何を言っているんだろう。昼間から下ネタは止めて頂きたい。誘われているのだろうか。担当に手を出してしまったら、その後は言われるがままに書く羽目になりそうだ。ハメたことによる損失は精神奴隷として生きる羽目。私は自由をこそ愛していた。
「リアルタイムの中継って大変ですよね、きっと」
何かを感じたであろう担当くんは標準語を用いて言い直した。残念だ。
そうだ。ミュージックステーションは生放送だった。失敗も即全国にそのままの形で流されてしまう。緊張のあまり、何をしでかしてしまうか分かったもんじゃない。訳がわからなくなるとズボンを脱ぐのは男のサガだ。これ以上、晒すものが無ければ落ち着くとでも思っているのだろうか、男という生き物は。でもそんなことになったら私のビッグ・ディックこと喪黒福造氏が全国ネットに映ってしまう。テレビの前の女性陣はそれこそ『ドーーーーンッ!』だ。ピカチュー事件の時のような国民失神事件は免れないだろう。笑福亭鶴瓶の二の舞にはなりたくなかった。
代替案が求められた。そしてそれはすぐに見つかった。
「せめてタモリ倶楽部には!」
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