短編160.『作家生活16』〜ライム篇〜
俺のライム、TIME誌の表紙飾ること皆無。
パントマイム、稀に見る淫夢。
ダセェ夢精は中坊までにしときな。
モザイクで小細工すんな、みんな無修正。
現実はヘヴィ、その上、ダーティー。
もしかして俺、才能の塊?
それにしちゃ誰も気付かない。驕り?
街歩いたところで、
誰も俺を見ようとしねぇ。
でもそのおかげでとんでもねぇ怪物になれそうな気がするぜ?
無視した分の因果、硬めた煉瓦でジェンガ。
冷めた眼で見る映画、放送は深夜二時だから録画。
抗争で応報、朗報は先方から電報。
吉報と果報は寝て待てYo!
*
「なんやセンセ、今日はえらいドスの効いた音楽聴いてはりますなぁ」
「Hey! What’s up? 俺のホーミー。調子どう?」
斜め上方から差し出した手は見事に打ち払われた。挨拶代わりのハンドシェイクは古の都には存在しないらしい。
「なんですの?どないでっか?」
「どうやら慢性的な”売れない貧困”が私の中のラッパーを呼び覚ましてしまったようだ」
ウーハーの強調する重低音。炸裂するライム。ニューエラのキャップにディッキーズ。カリカチュアの絵画よりステレオタイプに強調されている。ちなみに【ステレオタイプ】という言葉を作ったのはアメリカ人ジャーナリストのウォルター・リップマン(『世論』『幻の公衆』などが有名だ)。それくらいの教養はある。
「結構、良い感じに韻踏めていると思うんだけどな」
「韻踏めてはりますけど、”ありきたり”どすなぁ」と担当くんは呟いた。
「…私の一番嫌いな言葉だね」
「全ラッパー人口の九十九%が一度は踏むライムどすえ」
今日の担当くんは辛辣だった。かつての編集者くんを彷彿とさせる切れ味鋭いdisrespect。
「君って…あのその…私を褒めてくれる為に登場してきたんじゃないのかい?」
「登場?」
「いや、担当になってくれた的な」
BGMとして流れていたハードコアラップのトラックに合わせて、担当くんの首が動き始めた。まるで鳩のような動き。
「♪フロウで披露するアタシのラップ!フリルブラウスで、ブリるブラント。ベランダのプラント、しまっときな。目の前のマンションから七つ葉が見えちまうぜ?自生する北海道、規制する環境庁。帰省ついでにブリブリ。美瑛辺りじゃ今もバリバリ。カストリ飲んどけよマトリは。アムス行けないなら、その指アヌスに突っ込んどきな。お前のアナルより汚いリアル生き抜くアタシ、エグザイル♪」
担当くんのフロウする歌詞はそのままギャングスタだった。地上波のテレビでは流せない【コンプラ】だらけの。
「…ラップ、出来るんだ」
「昔、奈良公園で鹿とサイファーしておりましたわ」
京都弁話す薩摩おごじょは元Bガール。レペゼン奈良。鹿ホーミー。
情報量が多すぎた。私はニューエラのキャップを胸に当てた。
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