喇叭亭馬龍丑。日記「事件事故〜割れる〜」9/9(月)
2024.9.9(月)
「事件事故〜割れる〜」
先日、レコード屋の帰りにそれは起こった。いつも通りレコード袋をチャリの片方のハンドルに引っ掛け、大通りを走行していた。
ある細道の曲がり角に差し掛かった時、その細い道から戦艦すらを連想させる大型ママチャリが急激なスピードで飛び出してきた。
勿論、即興の鬼たるジャズメン見習いたる私はヒョイっと避けるのだが、ことはそれだけに収まらない。なにせ俺のチャリのハンドルにはレコード袋が。
急激な慣性の法則に耐えられなくなったレコード袋はその位置を変えた。そしてその先には高回転する前輪が。
真夏の夕刻に聴くような雷鳴が前下方から轟いた。嫌な予感しかしない。この世で唯一確実なのは、嫌な予感ほどよく当たる、ということ。
子連れママチャリは何事もなかったかのように走り去った。俺が聞いた雷鳴は幻だったのだろうか。
路肩にチャリを停め、レコード袋の上から触ってみる。神の手を持つ、と云われる俺の右手は何も触知しない。しかし、今、この場で中を見るのは些か怖い。卒倒する恐れがある。熱中症、ということで緊急搬送されてしまうかもしれない。
「なんか急に倒れたんですよね、この人」
「あー。熱中症でしょうね」
みたいに。
仕事場に戻り、恐る恐る中身を取り出してみる。ビニールによって硬く包装されたCD。光に透かして見るも、密閉されたそれに特段異常は見当たらない。ゆっくりとその包装を解く。その刹那、ケース後面にヒビが走り、数個のプラスチックの欠片が足元に落ちた。冷凍保存されたマンモスが解凍と同時に朽ち果てるみたいに。
これがCDで、そしてケースによって保護されていたからコンパクトディスク本体になんの傷もなかった事を褒めそやすべきか。もしこれがレコードであったなら、目も当てられない事態になっていたことだろう。だから…だから…「マザファカビッチ!」とは言いますまい。生身の人間三人の誰にも傷一つ負わせず、ひとり寡黙にその負傷を被ったCDの為にも。…クソッ…マザファカ……ビッチ…。