『ズッコケ中年三人組』の感想

40歳をむかえた三人組の物語だ。もしも大人になったら……という『未来報告』とは違い、本当に40になっている。第一作が刊行された1978年の時点で小学6年生だった彼らは、2005年に40になっている、という計算は一見正しいように思えるが、しかし、『卒業式』でモーちゃんが気づいたように、2004年までの26年間、彼らは小学6年生を繰り返し続けたはずなのだ。そのあたりの時間の流れかたに関する考察は、またいづれやり直さなければならない。

40になり、それぞれおじさんになった三人組だが、相変わらずハチベエは女にだらしがなく、当時の美少女三人組の一人、圭子と見事結婚したくせに、スナックのママにいれあげている。ハカセは小学校の教師をやっているが、向いてないのではないかと悩む。モーちゃんは深夜のコンビニで働きながら、嫁姑問題に悩んでいる。

それぞれに、変わってない。
いや、しかし。

物語は、あの因縁の怪盗Xが再び現れるところから加速していく。怪盗Xといえば、三作に渡って三人組と対決した組織的大泥棒である。読者としては胸踊る展開だ。しかも今回の獲物は、島田淡海の描いた油絵だという。この島田淡海は、『株式会社』のときに登場する超有名な放浪画家で、三人組ともそのときに知り合っている。

ここで、怪盗Xシリーズと、『株式会社』の世界観はジツヅキであることがわかる。さらに、彼らが昔を懐かしむ会話から、『文化祭事件』や『魔の異郷伝説』も彼らの記憶にあることがわかる。記憶にあるということは、それらも同じ世界線なのか?

これについては、ひとつの仮説があるにはあるが、なにぶんまとまってないので、今ここでは、そういう事実があることを記すにとどめる。

さて、Xとの対決だ。怪盗Xは、ズッコケシリーズの中で唯一三部作の形をとっているため、既出の情報量が多い。それらが上手に材料となりながら物語が展開していくのは、マニア心を多分にくすぐられる。当日小学生のハカセがXのアジトを突き止めるため入った雑居ビルに、20数年ぶりに訪れる描写など、時の流れを感じる良い場面だ。

ネタバレになるが、今回、Xとの直接対決らしい対決は起こらない。どちらかといえば、Xの作戦に三人組がまんまとやられた、という形になるのだが、しかし三人組も完全敗北ではなく、一矢報いてはおり、そのため「引き分け」だと怪盗Xは告げる。多少のドタバタを期待していたので少し残念だが、もう40の三人組にドタバタは無理があるのかもしれない。しかし、対決を終えた三人組が、それぞれの生活に戻っていく時、少しだけ変わっている(例えばハカセのクラスの悪ガキが、ハカセに助けられたことでおとなしくなったり)のを見ると、やっぱり、君らは三人組じゃなきゃあ!という少し嬉しい気持ちになるのだった。

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