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第22回「振り返り編② ブロム」~創作ノート~TARRYTOWNが上演されるまで

こんにちは!ミュージカル「TARRYTOWN」の翻訳・演出の中原和樹です。

今回の記事は、振り返り編として、登場人物のブロムにスポットを当て、公演時を振り返っていきたいと思います。

楽しそう!!

これはブロムが大好きなアメフトを見ている場面の写真です。ビール片手に楽しんでいますね。

イカボッドがカトリーナに誘われ、ブロムとカトリーナが住む家に招かれた際に、イカボッドと一緒にアメフトを見ます。アメフトのルールを知らないイカボッドに驚き、偉そうにしつつも楽しくそのルールをイカボッドに教え込みます。

それがFour Downs To The Ten-Yard Lineという曲です。

アメフトには10ヤードラインという線があり、4つのダウン(4回のプレー)が終わる前に、その10ヤードラインを越えないと相手方の攻撃になってしまうというルールがあるのですが、そのルールにのっとったタイトルです。

アメフトは本当に向こうでの国民的スポーツなので、このタイトルですぐに分かるのだと推測しますが、日本で上演する場合、馴染みがないのですぐには分かるのかなという話になり、訳詞では「エンドライン狙え」という言葉に置き換わりました。

創作面でも音楽面でもたくさん力添えをしてくれた山野くんの提案です。
結果として、言葉としても「狙え」という強い印象の言葉がブロムの人物像とこの楽曲の力強さを後押ししてくれ、素敵なまとまりになったと思います。

ちなみにこの楽曲は歌詞の中の韻がかなり多く、言葉のリズムと音楽のリズムが重要な楽曲だったので、訳詞にも多数の韻を入れ込んであります。
言葉探しが大変でしたが、楽しくクリエイティブな作業でした。
ちょっとだけ出だしを記載します。

試合の始まり  気合いの高まり
2チーム肩並べ
コイントスで  邪念落とし
負けん気起こせ
監督のオーダー  納得のメンバー
完璧に倒せ

ぜひ口にしてみてください。
言葉にするとリズムが乗りやすく感じるかと思います。

書斎で一人。Hisoryという楽曲を歌う場面

歴史学教授でありアメフト大好き、カトリーナと結婚しているが、その生活に困難を感じているというのがブロムの人物像です。

歴史とは事実のみが積み重なっているものであり、歴史は自分を裏切ることがないと考え、カトリーナとの生活で失っていった自信や、自分の「揺るぎなさ」のようなものを「歴史」の確固たる世界の中に見出そうとしています。

そのブロムの価値観を示す歌がHistoryという曲です。

この楽曲を歌う直前まで、ブロムはイカボッドとカトリーナと食事をしています。カトリーナがイカボッドを特別扱いしていることも感じつつ、学生が出した歴史学のレポートを採点する仕事が残っているために、二人をダイニングに残し、ブロムは中座し自分の書斎へと戻ります。
そしてこの楽曲を歌うのです。

ブロムの考え方を示しつつ、外側には見えてきづらいブロムの内側が垣間見られる曲で、楽曲自体も力強く、存在感があります。

ブロムを演じた山野靖博さんが、本当に素晴らしく表現してくれました。
ほぼ動かない状態で、歴史の本と相対しながら、どこまでがブロムの世界の中に籠っていて、ミュージカルとしてその内側をどう開放していくか、どう観客世界に接続していくかという話を創作中にたくさんしたことを覚えています。

今度は悪い顔してますねー

これは物語の終盤で、スリーピーホロウ伝説の内容・首無し騎士についての伝説をイカボッドとカトリーナに説明している場面です。

楽曲はThe Legend Of Sleepy Hollow。そのままスリーピーホロウ伝説というタイトルです。

会話的に盛り上がっていくような楽曲よりも、自身の力でもっていくような曲がブロムには多く、そのどれもが力強く強烈なのですが、その中でもこの楽曲は大変長く、曲中の展開も激しく、一人で演じ切る物語のような要素のある楽曲なので、語られる言葉でイカボッドやカトリーナ、そして観客にイメージを喚起させ、その世界の中へと誘い込ませる力が必要な大ナンバーです。

雰囲気を出すために部屋の明かりを消し、ランタンを持ち、臨場感たっぷりに語るブロムですが、物語前半でカトリーナをお出かけに誘う曲(リンゴ狩りの歌)や、ジャックオーランタンを彫る曲(かぼちゃ彫りの歌)などもあり、意外とアクティブな面を持っています。

原曲のアレンジでは弦楽器が低音を細かく奏でながら始まるのですが、ピアノ一本で行った今回の上演では、腱鞘炎になるんじゃないかぐらい大変なパートでしたが・・・
ピアニストの久野飛鳥さんが、その低音の連続を弾ききってくれました。
ここやばいよね、という話になりましたが、気合いでやるしかないですね、と笑いながら言ってくれました。

首無し騎士が、首を狩るという比喩でかぼちゃを持つ瞬間

左手に持っているのは台本です。台本を持って演じるスタイルでしたが、登場人物それぞれが持っている台本にもこだわりがあります。
台本をそのまま製本したのではなく、ブロムの場合は英語版の百科事典(写真の右手に写っている蔵書と同じシリーズ)を使っています。
そのまま持つと重すぎるので、中身をくり抜き、台本を貼るのに必要なページだけ残して、台本を一枚一枚手作業で貼っています。
演出助手の中野真由子さんが一生懸命想いを込めて作業してくれました。

台本を持つ・開くことも含めて、細部までこだわり、演技としても歌としても表現を追求し、多面的で不器用なブロムを生き切ってくれた山野靖博さんのエネルギーが溢れる写真です。


こうして並べてみると、表情が多彩で、存在感に満ちた人間であり、その裏側には自信の無さが見え隠れするブロム。
見ようによっては嫌われる要素も多い人物ですが、とても人間的でもあり、「TARRYTOWN」という、いわば迷いの森に一番フィットする人物なのかもしれません。

今回もお読みいただきありがとうございました。
次回はカトリーナ編を書いていこうと思います。お楽しみに!

中原和樹

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